2026年4月1日
Q.シンガポールにおける遺言書の作成について
目次
Q. シンガポールで有効な遺言書と認められるためにはどのように作成したら良いですか。
A. シンガポールにおいて、有効な遺言書と認められるためには、遺言法(Wills Act 1838)が定める形式的な要件を遵守する必要があります。
重要な要件は以下の通りです。
・遺言書は書面で作成されること。
・遺言書の末尾に遺言者本人の署名があること。
・遺言者の署名は、少なくとも2名の証人の立ち会いの下で行われること。
・各証人も遺言者の目の前で遺言書に署名すること。
また、現在のシンガポールでは、遺言書への電子署名は認められていません。2010年制定の電子取引法(Electronic Transactions Act 2010)において、遺言書の作成および執行は同法の適用対象から明示的に除外されています。
そのため、有効な遺言書を作成するためには、電子署名やデジタル方式を用いることはできず、遺言法が定める形式に従い物理的な書面への署名が必須となります。
これらの形式的要件が満たされない場合、遺言者の意図に関わらず、遺言書が無効と判断される可能性があるため、十分な注意が必要です。
Q. 遺言を作成できる法的能力について教えてください。また、遺言者が「健全な精神状態」であるとはどのような状態を指しますか。
A. 遺言者は、遺言書作成時に21歳以上かつ健全な精神状態(sound mind)にある必要があります。
「健全な精神状態」であるとは、遺言者が主に以下の事項を正しく理解し、判断できる能力を有している状態を指します。
・遺言者本人が遺言書を作成すること。
・遺言者本人の資産の性質および範囲。
・誰が遺産の分配を受けることを合理的に期待されるか。
Q. 遺言書の署名はどのように行えばよいですか。また、遺言者が署名できない場合はどうすればよいのでしょうか。
A. 遺言者は、遺言書の末尾に自署する必要があります。
遺言者が身体的な理由で署名ができない場合は、遺言者の立会いおよび指示のもと、代理人が遺言者に代わって署名することが認められています。このような場合でも、2名以上の証人の立ち合いが必要です。
署名の手続きが正しく行われていない場合、遺言書の有効性が否定される可能性があるため、十分な注意が必要です。
Q. どのような人に証人を依頼すればよいですか。例えば、受遺者である配偶者が証人になっても問題ないのでしょうか。
A. 遺言における受遺者、およびその配偶者は、証人となることは可能ですが、その場合、当該受遺者(またはその配偶者)に対する遺贈は、原則として無効となります。
遺言書自体の有効性には影響しないものの、証人となった受遺者等は、その遺言に基づく利益を受け取ることができなくなる可能性があります。
これは、詐欺や不当な利益享受を防止するためです。
そのため、実務上、証人は常に遺産に対して利害関係のない中立的な第三者に依頼することが推奨されます。
Q. 遺言書にはどのような内容を記載したらよいでしょうか。
A. 遺言書には、主に以下の事項を記載することが推奨されます。
・資産:遺言者の資産のリスト、詳細な説明を記載します。ただし、共同名義の不動産等は、遺言で分配できない場合があります。
・負債:遺産が分配される前に、負債、債務、諸費用等をどのように支払うかを明記します。
・受遺者:誰がどの資産を受け取るのか、また各受遺者が受け取る割合等を明確にします。受遺者が遺言者より先に死亡した場合についても、定めておくことが望まれます。
・後見人:受遺者が未成年の場合、その後見人を指定する必要があります。
・遺言執行者:遺産の内容を実行する遺言執行者を1名以上指名します。なお、受遺者が遺言執行者を兼ねることも可能です。
・アドバイザー:遺産の管理、執行について助言を受ける弁護士や会計士等の専門家について記載することも有用です。
・撤回条項:過去に作成した遺言がある場合、それらを明示的に撤回し、本遺言を最新のものとする旨を記載します。
・残余財産条項:特定の遺贈が分配された後、残りの遺産を処理するための条項です。具体的に言及されていない資産や失効不能な遺産(例えば、受遺者が遺言者より先に死亡した場合)について遺言者の意図を記載します。
Q. シンガポールにある全ての資産を遺言書で指定することはできますか。
A. シンガポールにおいては、すべての資産が遺言による分配の対象となるわけではなく、一部の資産については遺言の対象外となります。
例えば、CPF(中央積立基金)は、CPFノミネーションに従って分配されます。指定がない場合、遺言の内容に関わらず、相続法に基づき公的な管財人によって分配されます。
また、共同名義で保有する資産は、生存者取得権に基づき、他の共有者に自動的に帰属するため、遺言によって分配することはできません。
さらに、保険契約についても、別途受取人を指定している場合、その指定が優先的に適用されます。
このように、資産の種類によっては遺言の効力が及ばない場合があるため、事前に資産ごとの取扱いを確認しておくことが重要です。
なお、遺産相続については、以前の記事をご参照ください。
・シンガポールにおける遺産相続について
・シンガポールの銀行預金に関する相続手続


