2024年6月4日
Q.シンガポールにおける集団訴訟について
飛行機事故で愛する家族を失った悲しみに打ちひしがれる遺族に弁護士が近づき、航空会社からの補償金を受け取ろうと働きかける映画のシーンを見たことがありますか?また、集団が正義を求めて法廷でどのように闘うことができるかを考えたことがありますか?このような場合には、集団訴訟が推奨されています。今回はこの集団訴訟の法的概念について詳しく解説します。
目次
Q1. 集団訴訟とは何ですか?
A. 集団訴訟(Class action)とは、いわゆる集団代表訴訟(Group Action)のことです。つまり、被告の行為や不正行為の疑いにより共通の利害を有する一定範囲の人々のために起こされる民事訴訟の形態です。被告は自然人、法人、または会社です。
Q2. 集団訴訟の例をいくつか教えてもらえますか?
A. 現代社会における典型的な例としては、医薬品詐欺や航空機事故が挙げられます。前者の例は、COVID-19ウイルスの制御、診断、治療を適切に実行しなかったために患者と介護者に引き起こされた薬の予期せぬ副作用および過失と業務上の義務違反があります。
集団訴訟の他の例としては、価格操作や証券などの独占禁止法に関する訴訟があります。被告の詐欺により、個人投資家や、性別や出身地で差別された従業員が損害を被ることがあります。
Q3. なぜ集団訴訟が必要なのですか?
A. 集団訴訟は、個人の権利を保護する際に個人の声だけでは届かない可能性がある特定の範囲の人々を保護するためのものです。集団訴訟の起源は、1199年のアングロサクソン時代にまで遡ることができます。当時は、町や村が「地域社会」の利益を保護するために政府に苦情を申し立てていました。1873年に法と衡平法が融合した後、イギリスのコモンロー裁判所で利用が可能となりました。
集団で訴訟費用を分担できることもメリットの一つです。ただし、被った損害を証明しなければなりません。証明できない場合には、集団訴訟の個人に支払われる賠償額は申し訳程度の約1ドルまたは相当額とみなされる可能性があり、賠償額よりも訴訟費用の方が高額となってしまいます。
Q4. シンガポールでは集団訴訟が可能ですか?
A. 2022年4月1日、集団訴訟はシンガポールのすべての民事訴訟で適用が可能になりました。裁判所の許可を得ることを条件に集団訴訟が認められる裁判所規則 (Rules of Court 2021) 施行後にのみ、シンガポールで利用できます。すなわち、集団訴訟は2022年4月1日以前は、シンガポールで許可されていませんでした。
裁判所規則 (2021) では、原告に代わる請求者の数に上限はありませんが、少なくとも2人は必要です。ただし、証拠収集等の手続き面を考慮すると、上限を設ける必要性も考えられます。2024年6月現在、シンガポールの訴訟案件における過去最大の請求者数は、1,102人の投資家となっています。
Q5. 訴訟費用はどのように計算するのでしょうか?
A. 依頼人が勝訴した場合に裁判所が認めた裁定額に比例した報酬を弁護士が徴収することを許可している一部の法域とは異なり、シンガポールにおいては、成功報酬と呼ばれる報酬形態を認めないという立場を維持しています。
シンガポールでは、弁護士は従事した仕事に対して妥当な報酬を受け取る権利があります。これらの報酬は、弁護士報酬(Professional fee)と、弁護士が問題を円滑に解決するために最初に支払わなければならない出費(Disbursement)に分けられます。
遺言書作成などの非訴事件の弁護士報酬については、固定額または案件に費やした時間に対して金額を決定する時間制報酬があります。一方、訴訟事件は時間制報酬が基本ですが、離婚案件のように固定額の場合もあります。これらは「弁護士と依頼人」の間で発生する費用です。
「弁護士と依頼人」の間で発生する費用とは別に、「当事者と当事者」の間で発生する費用があります。これは、裁判所または仲裁裁判所が訴訟案件に対して認めた費用を指し、敗訴側が勝訴側に支払わなければならない費用です。
「当事者と当事者」の間で発生する費用は、「弁護士と依頼人」の間で発生する費用を完全に賄えるものではありません。しかし、シンガポール最高裁判所は訴訟費用の額と方法についてガイドラインを示しています。また、裁判所規則(2021)では、訴訟に応じて認められる費用についても掲示しています。
いずれにせよ、訴訟費用をめぐる争いがある場合、シンガポール裁判所では、Taxation という手続きで、訴訟費用の妥当性も判断することができます。