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会計・税務相談

2023年7月18日

Q.飲食業におけるPWM(漸進的賃金モデル)について

Q. 2023年3月1日から飲食業にもProgressive Wage Model(PWM)(漸進的賃金モデル)が導入されたそうですが、PWMとはどのような制度でしょうか。

 A. PWMは、労働集約型で賃金が比較的低く抑えられている業種について、研修による技能向上や労働生産性の改善により賃金の底上げを図る制度として、2014年から順次導入されてきました。2021年8月に政労使連合の低賃金労働者作業部会(TWG-LWW)がまとめた報告書では、月額総賃金で下位20%に属する労働者にPWMが広く適用されるよう、小売業・飲食業・廃品処理業へのPWMの適用拡大が提言され、2022年9月1日から小売業に適用されたのに続き、2023年3月1日から飲食業にも適用が開始されました。PWMが適用される業種では、当該業種の標準的なキャリアステップの各段階毎に月額総賃金および年間昇給の最低額が定められ、それぞれの職位に適した研修を従業員に履修させることが義務づけられています。
 

Q. 飲食業におけるキャリアステップは、どのように定められていますか。

 A. 飲食業では、まず業態によって大きく、AとBの2つのカテゴリーに分かれ、それぞれのカテゴリーで、以下のようなキャリアステップが定められています。
 

【カテゴリーA】

 ・ファーストフード、フードコートなど、注文した品をセルフサービスで受け取るような飲食店
 ・スーパーマーケットの総菜コーナー
 

【カテゴリーB】

 ・ウェイターがサービスする飲食店、およびカテゴリーAに該当しない飲食店
 ・ケータリングサービス
 ・セントラルキッチン
 

 

Q. 最低賃金は、どのように定められていますか。

 A. 上述のキャリアステップの職位毎に、フルタイマーについては月額総賃金の最低額、パートタイマーについては時間総賃金の最低額が定められています。雇用主は、シンガポール国籍および永住権を有する従業員の賃金について、これらの最低額の要件を満たさなければなりません。また、年次昇給額についても定めがあり、全ての職位に関し、2024年3月1日および2025年3月1日現在における年次昇給額が165Sドル以上であることとされています。シニアクックとマネージャーに関しては、賃金が下位20%より高い水準にあるため、最低賃金を定めず、市場の相場に任せるとしています。

 

【カテゴリーA】

 

【カテゴリーB】


 
 上記の月額総賃金は、基本給と契約上支給が定められる手当の合計額で、残業手当やインセンティブなどは含まれていません。雇用法第4章の適用対象となる従業員が残業した場合は、時間当たり基本時給の1.5倍の残業手当を支給し、かつ残業時間数別に別途定められた残業手当込の月額総賃金の最低額を満たさなければなりません。尚、月当たりの残業時間は、最長で72時間が限度とされており、それを超えて就労させることはできません。
 

Q. 教育研修の義務については、どのように定められていますか。

 A. 飲食業に従事する従業員には、職位毎にリスト化された労働技能資格(WSQ)の研修科目の中から2つ以上の講座を受講させなければなりません。2023年3月1日現在に在籍中の社員は2024年2月28日までの1年以内に、新規に採用された社員は入社から6カ月以内に履修させることとされています。マネージャーおよびシニアクックに関しては、上記の指定された講座の受講は努力義務とされ、雇用主が独自の必要性に応じた研修プログラムを柔軟に組めるような配慮も為されています。
 

Q. PWMの要件を満たしていない場合、どうなりますか。

 A. 雇用主がシンガポール国籍および永住権の従業員についてPWMで定められた要件を満たしていない場合、外国人の就労ビザの新規発給および更新が停止されます。2023年3月1日から8月31日までの6カ月間は試行期間とされ、雇用主はこの間に賃金の改定や研修を実施して、要件を満たすように改善しなければなりません。2023年9月1日を過ぎても要件を満たしていない雇用主は、人材省(MOM)から勧告を受け、それが是正されない場合は、就労ビザの新規発給または更新が停止される可能性があります。
 

Q. MOMは、各社の従業員の職位や賃金をどのようにして把握するのでしょうか。

 A. 雇用主は、MOMのウエブサイトにある職種別雇用データセット(OED)に従業員のデータ(役職および職務、雇用形態(フルタイム・パートタイムなど)、就労時間数および賃金、勤務先)を入力しなければなりません。MOMは、雇用主がデータを正しく入力しているかどうかを従業員が確認できるポータルを現在、開発中です。完成すれば、雇用主の申告内容と就労実態に差異があった場合、従業員はMOMに確認を要求することができるようになります。
 

著:Tricor Singapore Pte Ltd 斯波澄子

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