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2023年1月4日

23年のアセアン経済は4%台に減速へ、インフレがネック

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 2023年のアセアン経済は、インフレ高進に伴う利上げなどによって成長ペースが鈍化する可能性が高い。コロナ禍からの回復が顕著だった22年は、域内全体のGDP成長率が5%台の半ばで着地しそうだが、23年は4%台に減速するとの見方が有力だ。それでも、3%程度に見積もられる世界経済全体と比べた場合は高い水準。中でもベトナムは、22年が7%台、23年が6%台と予想されるなど突出した成長を記録しそうだ。以下、「亜州ビジネスASEAN」ニュースを引用しつつ公的機関によるアセアン経済の分析内容を確認したい。
 
 まず、アジア開発銀行(ADB)が22年12月に発表したリポート「アジア経済見通し2022年補足版」を概観してみよう。
 

23年の域内経済成長予測4.7%、ADBが下方修正

 アジア開発銀行(ADB)は14日発表した「アジア経済見通し2022年補足版」で、東南アジアの23年の国内総生産(GDP)成長率予測を4.7%とし、前回発表(9月)の5.0%から引き下げた。物価の高騰や金利の上昇、外需の低迷などにより、22年見通しの5.5%から減速するとみている。一方、22年については、消費や観光が堅調に回復していることから成長率予測を上方修正した。
 
 域内の主要6ヵ国すべてで23年の成長率予測を下方修正した。うち最も低いシンガポール(2.3%)は、高インフレなどで消費が低迷する見通し。また、タイ(4.0%)は輸出減速への懸念が強まったことで予測を引き下げた。最も高いベトナム(6.3%)も輸出先の景気悪化を考慮して下方修正した。
 
 22年の東南アジアのGDP成長率予測は5.5%で、前回の5.1%から引き上げた。新型コロナウイルス禍からの回復により、ベトナム(7.5%)とフィリピン(7.4%)、マレーシア(7.3%)では7%を超える見通し。この3ヵ国に観光業が盛んなタイ(3.2%)を加えた4ヵ国で成長率予測を上方修正した。
 
 東南アジアのインフレ予測は、22年が5.1%、23年が4.5%。23年の予測は前回(4.1%)から引き上げており、特にシンガポール(5.5%)で大幅に上方修正した。[「亜州ビジネスASEAN」 12月16日付ニュース]
 


 
 23年の減速予想について、同リポートは「物価の高騰や金利の上昇、外需の低迷など」を理由に挙げている。物価高騰に伴う消費低迷が特に深刻なシンガポールに関しては、成長率が2.3%まで鈍化するとの見立てだ。一方で、ベトナムに対しては強気。外需の冷え込みによる輸出の伸び悩みが景気を減速させるとしつつも、23年は6.3%と高い水準を予想した(22年は7.5%を見込む)。
 

 
 実際、ADBに限らずベトナムに対しては強気のスタンスが目立つ。いくつか理由が考えられるが、インフレによる影響が燃料や輸送など一部に限定される点が大きいといえる。これについては、以下のIMFリポートが詳しく分析している。
 

ベトナム経済の見通しを楽観、物価高の影響は限定的=IMF

 国際通貨基金(IMF)は6日、ベトナム経済に関するリポートを発表し、同国経済の先行きが明るいとの見通しを示した。世界的な物価高の影響がベトナムでは限定的としている。
 
 IMFは7月、ベトナムの2022年の国内総生産(GDP)成長率予想を7.0%とし、3カ月前の予想から1.0%引き上げた。世界的な物価高が他国では重くのしかかるが、ベトナムは食品類の自給率が高く、インフレによる影響は燃料や輸送などに限定されるとした。食品類に関しては、ベトナムでは主食のコメ生産が盛ん。また豚肉の供給も前年より増え、価格が下がっている。
 
 IMFはまた、新型コロナウイルス関連規制の緩和や、高いワクチン接種率が経済回復の根底にあると指摘。低金利や融資拡大、政府による景気刺激策も追い風を強めているとした。
 
 一方、23年のベトナム経済の成長率予想は6.7%と、3カ月前から0.5ポイント引き下げた。ただしアジア主要国では最も成長率が高い国になるとしている。
 
 IMFは、世界のGDP成長率を22年は3.2%、23年は2.9%と予想。新型コロナ禍からの回復で6.1%と伸びた21年から鈍化するとの見方で、ロシアのウクライナ侵攻やそれに伴う高インフレ、金融正常化、先進国や中国の経済停滞などが背景にあるとしている。[「亜州ビジネスASEAN」 9月8日付ニュース]
 


 
 このように、国によって経済成長ペースが異なってくる可能性が高いものの、22年から23年にかけて一定の減速を強いられるのは各国とも避けられない状況だ。世界的にインフレが経済成長のネックになっている以上、景気を上向かせるためには物価の安定が必須。最大のカギを握るのは、やはりウクライナ情勢と言えよう。停戦の目処が立ち、各種コモディティの価格が安定に向かうことに期待したい。
 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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