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2022年12月1日

ベトナム不動産市場に暗雲、業界大手ノバランドの経営危機説も

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 今年上半期まで比較的堅調に推移していたベトナムの不動産市場だが、ここに来て変調・悪化を示す複数のサインが表れはじめている。最もショッキングなのは、不動産開発大手のノバランド・グループに経営危機説が浮上していること。大規模リストラの報道や債務償還のリスクがクローズアップされるなか、11月の同社株は連日で大きく値を下げ、株式マーケット全体の足を引っ張り続けた。その背景には、米利上げペースの加速に伴う政策金利の引き上げがある。ベトナム中央銀行は10月24日、政策金利を1.00ポイント引き上げると発表。9月23日に続き、わずか1ヵ月の間で2度目の利上げに踏み切ったのだ。
 
 また、不動産価格の高騰を抑えたい政府による融資規制や所有制限の動きも逆風。一連の引き締めを受け、ホーチミン市の集合住宅販売件数は今年第3四半期にわずか990戸にとどまり、新規物件の吸収率が15%と19年以降の最低を記録した。以下、これらの悪いシグナルを「亜州ビジネスASEAN」ニュースで追ってみたい。
 
 まず、ノバランドの経営不安を強めた大量解雇の報道を確認しておく。財務体質が大きく悪化しているだけに、この観測は信憑性が高い。
 

ノバランド、財務悪化で大量解雇=関係筋

 財務体質の悪化を受けて、地場不動産開発大手のノバランド・グループが従業員の大量解雇に踏み切ったもようだ。関係筋3人がロイター通信に明かした内容としてVOAティエンベトが11月9日伝えた。
 
 関係筋によると、ノバランドは過去1ヵ月で従業員の約半数を解雇した。不動産物件の売却も急いでいる。ベトナム中央銀行から、一部の社債を投資家に十分な説明もせずに販売したとして早期償還を命じられたことが財務悪化の引き金になった。 
 
 ベトナム債券市場協会によると、ノバランドの社債現存額は9兆8,570億ドン(約578億円)。今年の起債額は不動産業界で最大だった。
 
 ノバランドのブイ・スアン・フイ会長は7日、解雇実施は認めたが、規模については明らかにしなかった。中銀に対して、資金流動性を高めるための対策を請うとしている。
 
 ノバランドは2007年設立。ホーチミン証券取引所(HOSE)の上場企業で、時価総額は47億米ドルと、不動産業界では最大手ビンホームズに次ぐ2位だ。今年1~9月の売上高は前年同期比23%増の7兆8,940億ドン、純利益は19%減の2兆540億ドン。利払いと為替損失の拡大が減益の主因となっている。[「亜州ビジネスASEAN」 11月9日付ニュース]
 


 
 財務体質の悪化に追い打ちをかけているのは、米利上げの影響による世界的な金利の上昇といえる。米国に追随する形で、ベトナムも急ピッチの利上げに踏み切らざるを得なかった格好だ。その状況を改めて確認しておく。
 

中銀が利上げ、1ヵ月で2度目

 ベトナム中央銀行は11月24日、政策金利を1.00ポイント引き上げると発表した。25日から適用。インフレ抑制と為替安定化に向けたもので、利上げはこの1ヵ月で2度目となる。ベトナムニュースが24日付で伝えた。
 
 政策金利のうち、中銀が商業銀行に短期的に貸し出す際の金利である再割引金利(リファイナンス金利)を5.00%から6.00%に引き上げた。また短期有価証券を担保に中銀が商銀に貸し出す際の金利である基準割引率(ディスカウントレート)を3.50%から4.50%に引き上げた。
 
 中銀は今回また、商銀の預金金利上限も引き上げた。例えば預入期間が1~6ヵ月のドン建て定期預金の金利上限は、これまでの5.00%から6.00%に引き上げた。一方、銀行間の貸し出しについても、翌日物金利を5.00%から6.00%に引き上げた。
 
 中銀は「世界的な物価上昇で米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げが年内に見込まれるほか、通貨ドンが対米ドルで急落し、また国内でもインフレ圧力が高まっていることから追加利上げを行った」と説明。為替については今月17日、中銀が米ドルに対するドンの許容変動幅を上下各3%から5%に拡大し、その数日後には新たな天井付近に達している。
 
 中銀は1ヵ月前の9月23日にも1.00ポイントの利上げを敢行。新型コロナウイルスからの経済回復を後押しするために20年10月から政策金利を据え置いていたが、インフレ圧力の高まりを受けて利上げに踏み切った。[「亜州ビジネスASEAN」 10月25日付ニュース]
 


 

 
 最後に、不動産販売がすでに低迷し始めている様子をみてみよう。顕著な例として、ホーチミン市の住宅販売状況を紹介する。
 

ホーチミンの集合住宅販売、第3四半期は990戸のみ

 不動産仲介を手がけるサヴィルズ・ベトナムによれば、2022年第3四半期のホーチミン市の新規集合住宅の販売戸数はわずか990戸にとどまり、新規物件の吸収率は15%と19年以降で最低となった。建設省が集合住宅の所有権に期限を設けることを提案していることから、購入をためらう動きが出たもよう。VNエクスプレスが10月30日付で伝えた。
 
 9月末時点の在庫は4400戸で、19年以降で最高。建設省が集合住宅の所有権を50~70年に制限することを提案しており、消費者心理に影響を及ぼしている。
 
 不動産サービス会社CBREベトナムの関係者は、第3四半期の販売件数は少なかったものの、新規の発売件数を考慮すると妥当だったと指摘。開発業者に対しては、「キャッシュフローの改善を目指すならば、低中価格帯の物件を開発すべき」としている。[「亜州ビジネスASEAN」 11月1日付ニュース]
 


 
 不動産バブルを抑えつつ、景気の悪化を避けることができるのかどうか――。ソフトランディングに向けたベトナム政府の舵取りが注目される。
 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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