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会計・税務相談

2022年9月19日

Q.Progressive Wage Model(PWM)について

Q. シンガポールで2022年9月1日から適用が拡大されるProgressive Wage Model(PWM)(漸進的賃金モデル)とは、どのような制度ですか。

 A. PWMは、労働集約型で、職場で体系的な教育研修が十分に実施されておらず、結果的に賃金が比較的低く抑えられている業種について、シンガポール国籍および永住権を有する従業員(ローカル従業員)の教育研修の実施と賃金の上昇を併せて義務づけ、労働生産性の向上を目指す制度です。全業種を対象にした賃金底上げの制度としては、2013年より導入されたWage Credit Scheme(賃金還付制度)がありますが、PWMは、特に生産性の改善が進みにくい業種について、各業種の特性を踏まえ、個別かつ確実に実行される制度として設計されています。
 
 清掃業・造園業・警備業・エレベーターエスカレーター業については既に導入済ですが、今後新たに小売業・飲食業・廃品処理業にも順次導入されていく予定です。また、これらの業種別漸進的賃金(PW)とは別に、職種別PWとして、事務職および運転手にも2023年3月1日より適用が開始されます。
 

 
 2022年9月1日からは、清掃業・造園業・警備業に携わる従業員について、管轄省庁の許認可を必要とする事業主だけでなく、清掃員・警備員・庭師を雇用する一般の事業主も、PWの要件を満たさなければなりません。
 
 同じく2022年9月1日から、外国人の雇用について就労ビザ(エンプロイメントパス・Sパス・ワークパーミット)の新規発行または更新を申請する全ての事業主は、業種を問わず、ローカル従業員に対し、以下の賃金を支給しなければなりません。
 ・適用開始済の業種別PWまたは職種別PWの対象となるローカル従業員について、PWとして定められた最低賃金以上の賃金
 ・それ以外の全てのローカル従業員について、Local Qualifying Salary(LQS)(ローカル適格給与)以上の賃金
 
 LQSは、月当たりの所定労働時間が35時間未満のパートタイマーの場合は時間総賃金9Sドル以上、35~44時間のフルタイマーの場合は月額総賃金1,400Sドル以上とされており、雇用法第四章の適用対象者が残業した場合は、各月の残業時間数に応じて加算されたLQSが別途定められています。
 

Q. 小売業の場合、具体的にはどのようなことが要求されるのでしょうか。

 A. シンガポール人材開発省(MOM)は、小売業のキャリアステップとして、以下の5段階を設定しています。ここで使用されている名称は、あくまでもそれぞれの職能の目安を示すもので、各事業主により独自の名称を使用しても問題ありません。
 

 
 PWMでは、上記の5つの職能のそれぞれの段階において、所定のWorkforce Skills Qualification(労働力技能資格)の研修コースのうち少なくとも1つ以上を受講させること、並びに下位の3段階の職能について最低賃金を遵守することが義務づけられます。
 
 最低賃金は、月当たりの所定労働時間が35~44時間のフルタイマーの月額総賃金と35時間未満のパートタイマーの時間総賃金に分けて定められており、併せて年次昇給の最低額についても定められています。最低賃金および最低年次昇給額は1年毎に上昇し、今のところ3年分が公表されており、2024年には見直しが実施される予定です。
 

 
  上記の最低月額賃金とは別に、残業手当の支給が義務づけられている雇用法第四章の適用対象者には、残業手当を加味した最低月額賃金が月当たり1時間から72時間までの残業時間別に設定されており、月72時間を超える残業については法律により禁止されています。また、当然のことながら、残業手当は、基準となる時給の1.5倍の金額を 支給しなければなりません。
 

Q. PWの要件に従わなかった場合、どうなりますか。

 A. MOMは、2022年9月1日から2023年2月28日までの最初の6ヵ月間については、事業主が制度を正しく理解し、遵守できるように支援する期間としていて、この期間中、罰則は適用されませんが、雇用主が最低賃金より少ない賃金を支払っていた場合は不足額を追加支給しなければなりません。
 
 2023年3月1日以後に違反が見つかった場合、MOMは所定の期限までに是正するよう勧告し、是正が為されなかった場合は、当該事業主に対し、就労ビザ(エンプロイメントパス・Sパス・ワークパーミット)の新規発行・更新の停止などの措置を講じます。
 

著:Tricor Singapore Pte Ltd 斯波澄子

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