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2022年7月1日

ウクライナ紛争の影響がアセアン各地で表面化 ~ 食品・エネルギー分野のダメージ深刻

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 4月1日付の本コラム「ウクライナ紛争がアセアン経済の新たな災厄に」では、アセアン経済に暗雲が立ち込め始めた様子に触れたが、今回はそのマイナス影響が表面化した具体的な事例を列挙してみる。
 
 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから3ヵ月半が経過した6月中旬時点で、特に大きなダメージを受けている分野は食品とエネルギーだ。まず食品分野の深刻な影響について、マレーシアとベトナムの2事例を「亜州ビジネスASEAN」ニュースで確認しておこう。
 

マレーシア:鶏肉輸出を事実上禁止

 マレーシア政府は6月1日から、鶏肉の輸出を事実上禁止する。国内供給が不足し価格が高騰する中、需給が改善するまで輸出を制限する。各紙が伝えた。
 
 先週の閣議で決定した。国民生活を優先するためで、1ヵ月当たり鶏360万羽の輸出を制限。足元での輸出量を踏まえると、事実上の輸出禁止となる。
 
 鶏肉の供給不足や価格高騰には、複数の要因が絡み合っている。ロシアのウクライナ侵攻による世界的な物流停滞が一因。ウクライナは飼料の原料になるトウモロコシや小麦の生産が豊富で、ロシアの侵攻により供給が減少し、飼料の高騰が鶏の生産に影響した。鳥インフルエンザ流行も響いている。
 
 農業・農業関連産業省のバウラル・ヒシャム・モハメド事務次官は、養鶏業のコストの72%は飼料が占めると指摘。国内ではトウモロコシの生産が大規模には行われておらず、飼料向けは輸入に依存しているが、一部の土地でアブラヤシからトウモロコシに転作することで供給拡充を図るとしている。[「亜州ビジネスASEAN」 5月31日付ニュース]
 

ベトナム:食用油価格が高騰、2年で2倍に

 食用油の価格が高騰している。1リットル当たりの販売価格は4万8,000〜5万5,000ドン(約264〜303円)となり、年初から50%上昇。2年前に比べると2倍となった。VNエクスプレスが18日付で伝えた。
 
 大豆油やひまわり油、ぬか油など食用油でも高級な部類の製品は価格が2020年から90%上昇。1リットル当たり6万8,000〜8万5,000ドンとなっている。
 
 最も使われているパーム油は、過去2年で4倍に上昇。世界生産1位のインドネシアが国内市場の価格安定化を図るため、4月末から輸出を禁止したことで、国際価格が急騰している。
 
 ロシアによるウクライナ侵攻も影響。両国のひまわり油供給は合計で世界の75%を超えており、ウクライナ危機の長期化による影響は大きくなっている。
 
 食用油不足はインドや欧州連合(EU)など世界各国で顕著。ベトナムのあるメーカーの関係者は、需給が安定しなければ22年後半も価格上昇が止まらないとの見方を示している。[「亜州ビジネスASEAN」 5月22日付ニュース]
 


 
 前掲のニュース「マレーシア:鶏肉輸出を事実上禁止」に関しては、イスラム圏の同国で鶏肉が圧倒的に多く食べられているという背景を補足しておく必要があろう。イスラム教徒にとって豚肉を食することダブ―であるため、食肉のほとんどが鶏肉で占められる構図だ。
 

 
 次に、エネルギー分野のマイナス影響を見てみる。ウクライナ危機に伴う原油価格の高騰は、言うまでもなくアセアン全域の経済を停滞させているが、以下、象徴的な動きとして通貨安とのダブルパンチで苦境に立たされているラオスの事例を紹介したい。
 

ラオスでガソリン不足が深刻化、輸入量8割減

 ラオスでガソリン不足が深刻化している。ロシアのウクライナ侵攻や通貨キープ安を背景に、輸入量が通常時に比べ8割以上も減少し、月2,000万リットルの水準にとどまっていることが要因。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)などが伝えた。
 
 ラオスはガソリンのほとんどを近隣国からの輸入に頼っており、通常は月1億2,000万リットルを輸入している。ガソリン不足は国民の生活や経済活動に大きな影響を与えており、ガソリンを入手できずに学校や会社、農作業に行けない人が増えているという。給油所には連日、バイク客で長蛇の列ができるものの、1回当たりの給油量が1.5リットルに制限されている上、1日1時間しか営業しない店舗もあり、ガソリンの調達が難しい状況となっている。
 
 ガソリン価格は5月16日時点で1ガロン(約3.8リットル)当たり6.35米ドルと、東南アジアではシンガポールに次ぐ高水準という。政府は低価格の原油の輸入に向けてロシアとの交渉を予定しているが、ウクライナ問題の長期化や輸送の課題があり、早期の実現は難しいとみられている。[「亜州ビジネスASEAN」 5月29日付ニュース]
 


 
 以上、食品・エネルギー分野のダメージを述べてきたが、結局のところは物価上昇の問題に行きつく。アセアン各国はすべて、インフレの進行に悩まされている状態だ。最後に、約14年ぶりのCPI上昇率を5月に記録したタイの物価動向を伝える。
 

タイ:5月の物価上昇率7.1%、14年ぶり高さ

 商務省が6日発表した2022年5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比で7.1%だった。原油や食品の値上がりに加え、電気代補助政策が終わったことで、前月(4.7%)から伸びが加速。08年7月以来、13年10ヵ月ぶりの高水準となった。
 
 品目別では住居(6.7%)の伸びが大きく拡大。補助政策の終了により、これに含まれる電気(45.4%)が急騰したほか、水道(9.4%)が2ヵ月ぶりのプラスに転じた。ほか、軽油の補助金が減額され、車両用燃料(35.9%)の伸びは6ヵ月ぶりの高水準を記録。食品(6.2%)では生産コストの上昇で生鮮肉(21.9%)や油脂(26.0%)が大きく伸び、生鮮魚(6.2%)も前月から加速した。原燃料高・輸送費上昇の影響は幅広い品目に波及しており、振れ幅の大きいエネルギーと生鮮食品を除くコア指数は2.3%と、12年3月以来、10年2ヵ月ぶりの高さとなった。
 
 同省は軽油や調理ガスの価格上昇で6月以降も高インフレが続くと予測。ただ、5月からはやや減速し、6〜9月の上昇率は6%前後にとどまるとみている。22年のCPI上昇率予測は4.0〜5.0%とし、前月から据え置いた。[「亜州ビジネスASEAN」 6月6日付ニュース]
 

 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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