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会計・税務相談

2021年11月5日

Q.欠損金繰り戻し控除制度について

Q. 欠損金繰り戻し控除制度とは、どのような制度でしょうか。

 欠損金繰り戻し控除制度(Carry-back Relief System)は、前賦課年度について課税所得があり法人税を納付した事業主が今賦課年度について欠損を計上した場合、その欠損金を前賦課年度の所得から控除して税金を再計算し、法人税を還付するという制度です。この制度がなければ、欠損金は繰り越して将来の所得と相殺するまで使い道がありませんが、過去の所得と相殺し税金を還付することにより、赤字に陥っている事業主のキャッシュフローを支援する制度として導入されています。尚、ここで言う欠損金は、当該賦課年度に発生し、所得から控除しきれないことにより繰越が認められるキャピタルアローワンスと事業損失の両方を指しています。また、控除の対象となる前賦課年度の所得は、キャピタルアローワンス、事業損失、特定寄付金を控除後の賦課所得(assessable Income)を指します。
 

Q. 欠損金繰り戻し制度で相殺できるのは、直前1賦課年度の所得だけですか。

 この制度では、原則として10万Sドルを限度として直前1賦課年度の所得から控除することが認められています。但し、2020賦課年度および2021賦課年度に発生した欠損金に限り、新型コロナウィルス感染症に関する経済対策として、それぞれの賦課年度について10万Sドルを限度として直前3賦課年度の所得から控除することが特別措置として認められています。
 

Q. 2022賦課年度については、特別措置は適用されないのでしょうか。

 2022賦課年度(2021年に終了した会計年度)については、まだ何も発表されていません。特別措置の適用があるとしたら、恐らく2022年の予算演説で発表されることになるでしょう。
 

Q. 直前3賦課年度の所得から控除する場合、どのような順番で控除されますか。

 直前3賦課年度のうち最も古い賦課年度の所得から順番に控除されます。例えば、2020賦課年度に欠損が生じた場合、まず2017賦課年度の所得、次いで2018賦課年度の所得、それでも控除しきれなければ2019賦課年度の所得から控除されます。
 

Q. 1賦課年度につき上限とされる10万Sドル全額について欠損金繰り戻し制度を適用した場合、還付される税金はいくらになりますか。

 還付される税金の金額は、控除の対象となった所得が実質的に何%の税率で課税されたかによって異なります。ご存じのようにシンガポールの法人税率は17%ですが、課税所得のうち2019賦課年度までは最初の30万Sドル、2020賦課年度からは最初の20万Sドルについて部分的免税が適用されており、この部分の所得に対する実質的な税率は8.5%未満となっています。また、要件を満たす新設会社には、より優遇された部分的免税の適用が認められています。ですので、仮に10万Sドル全額について欠損金繰り戻しが認められたとしても、還付される税額がその10%の17,000Sドルになるとは限りません。
 

Q. 欠損金繰り戻し控除は、法人税の申告書を提出したら自動的に適用されるのでしょうか。

 繰り戻し控除の適用を希望する場合、法人税申告の際に申請が必要です。欠損金があり、繰り戻し控除を申請しなかった場合は、自動的に繰越欠損金として処理されます。尚、2020賦課年度および2021賦課年度について繰り戻し控除を申請する場合は、直前1賦課年度の所得から控除するか直前3賦課年度の所得から控除するか、選択することができます。いずれの場合にも、一旦繰り戻し控除を申請したら、後になってそれを取り消すことはできません。
 

Q. 繰越欠損金および未控除キャピタルアローワンスの控除には、欠損金またはキャピタルアローワンスが発生した年度とそれを控除する年度において株主が50%超変動していないことが要件とされていますが、繰り戻し控除にも同じような要件がありますか。

 繰り戻し控除における株主要件は、欠損金に関しては当該欠損金が発生した会計年度の初日とそれを控除する賦課年度の末日、キャピタルアローワンスに関しては当該キャピタルアローワンスの発生にかかる賦課年度の初日とそれを控除する賦課年度の末日における株主構成を比較して判断されます。キャピタルアローワンスの控除に関しては、発生した年度と控除する年度において同じ事業を継続していることも要件とされています。
 

著:Tricor Singapore Pte Ltd 斯波澄子

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