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ビジネスインタビュー

2015年2月2日

【駐シンガポール 日本国特命全権大使】竹内 春久さん

シンガポールの50年は「サクセスストーリー」 国交50周年事業への積極的なご参加を

 独立50周年を迎え、祝賀ムードのシンガポール。日本との関係では、来年2016年が国交50周年という節目の年に当たり、竹内大使を委員長とする「日シンガポール国交50周年実行委員会」が発足した。安倍晋三首相が2012年末の就任以来、リー・シェンロン首相と5度もの首脳会談を行うなど緊密な関係が保たれている日本とシンガポールの関係。加えて、近年では多くの地方自治体なども日本から来星し、首長によるトップセールスが行われるなど、今後ますます両国の関係が深まっていくことが見込まれる。赴任して間もなく1年半が経過する竹内春久大使に、節目の年に向けた思いや自治体が取り組む地方活性化への支援などについて伺った。

 

シンガポールにどんな印象をお持ちですか。

 活気のあるところ、何か常に物事が動いているところという印象ですね。街の雰囲気もそうですし、シンガポールの方々とお話していると、バイタリティがあり、常に新しいことに取り組んでいる。アジアのハブになろうと、1歩先、2歩先の未来を見据えてどうするかということを常に考えている、という印象を強く感じます。過去に赴任した国はそれぞれに個性があり一概に比較はできませんが、日本との距離感においては断然近いという印象です。街を歩いていても人と話していても、日本という存在がすぐそこにある。ある意味で日本と地続きの存在であると感じます。それは在留邦人の方の数が多いことにも現れているんじゃないでしょうか。以前の赴任先のイスラエルでしたら在留邦人は約800人ほどですが、こちらは3万人を超えますから。
 

独立50周年を迎えたシンガポールの歩みについてどうお感じでしょうか?

 政治家だけでなく、一般の方も含めて、シンガポールの建国に携わった方々に独立当時の話を伺う機会がありますが、良くここまで来たなと。過去の50年はシンガポールにとってサクセスストーリーと言えるのではないでしょうか。何もないところから出発した国が今日の隆盛にたどり着いた理由は、ここまでの先人たちの努力の積み重ねであろうと思います。一人一人がそれぞれに、国が発展するにつれて、生活も変わってきた、自分の暮らしがどんどん良くなってきたという物語を持っておられる。
 

日本がシンガポールという国に学ぶべき点などはありますでしょうか?

 シンガポールと日本はお互いに学びあう関係になっていると思います。日本が学ぶべきは、やはりシンガポールが常に1歩先、2歩先を見据えて、今何をしなければいけないのかを考えているところでしょうか。周りの国々との競争関係の中で、「何かシンガポールらしい特長を出そう」と常に考えている姿勢、前向きな態度といったものは学ぶべき点でしょう。資源のない国として、熱心に人材育成に取り組んできたことや、空港・金融をハブ化するなどの取り組みで、今日の地位を築きあげてきたのだと思います。先人の方々が営々と努力を積み重ねてきた結果でしょう。
 

今年はシンガポール日本人会設立100周年に当たる年でもあります。この間には戦争も含め両国関係に様々な変化がありました。100年の両国関係を振り返り、どのようなお考えをお持ちでしょうか?

 昨年は5月にシャングリラ・ダイアログ出席と視察のため、安倍晋三首相が来星されました。今日、両国の緊密な関係があり、日本人がビジネスなどでも、多大なホスピタリティを享受しながらシンガポールで活動できております。ここまで来るのには長い道のりがありましたが、日本とシンガポール双方の先達の方々が営々と努力を重ねてきたということのほかにないと思います。国同士の関係は、1回のことで物事がガラリと変わるということではありません。それぞれの立場の方がそれぞれに努力を重ねるその過程の中で新しい関係も生まれてくる、その積み重ねの結果が今日の両国関係の姿なのではないでしょうか。

 

節目の年にあたり、大使館としてどのような活動・イベントなどをご予定でしょうか?

 2016年は日本とシンガポールが国交を樹立し50周年となります。その記念すべき年を両国民で盛大に祝うべく実行委員会が発足いたしました。実行委員会にはシンガポール日本人会、シンガポール日本商工会議所、シンガポール・日本文化協会、シンガポール留日大学卒業生協会を始めとする多くの団体が参加しています。こうした方々と連携を取り、イニシアチブを尊重しながら進めていきたいと思います。また、多くの方々とともにこの記念すべき年を祝うべく、皆様の取組を50周年事業として認定する仕組みを構築する予定です。皆様の積極的なご参加をお願いします。
 

近年では、国・政府だけでなく日本各地の地方自治体からも視察や輸出拡大・観光客誘致に向けたトップセールスが盛んです。地方活性化に向けての取り組みですが、改善点などはありますか?

 本当に最近は地方自治体の来星が活発で、昨年1年間でのべ10人の都道府県知事がお越しになっています。各自治体が活発に訪問されるのは大変ありがたいことですね。これも時代の流れなのでしょうか。それぞれの自治体の立場からアジアやシンガポールの強みや特徴と上手く繋げて、ますます交流が活発になれば良いと思います。ぜひ大使館としても地方活性化のお役に立てればと思っております。
 
 大使館だけでなく、こちらには、CLAIR(クレア、自治体国際化協会)シンガポールや、観光関係ではJNTO(日本政府観光局)、経済や貿易関係ではジェトロ・シンガポール(日本貿易振興機構)など、政府関係の様々な機関の事務所があります。我々の仲間であるこうした機関と連携をしながら、皆様のためにお役に立てればと思っております。
 
 各自治体は、自分たちの強みはどこにあるか、どのようなポイントに絞り込んでアピールするかという点がこれからは大切なのではないでしょうか。私の不勉強ではあるのですが、こちらで思いがけない方から、私も知らないような日本のある地方のファンであるという話を伺って、逆に私が教えられたということもありました。本当にシンガポールからはたくさんの方が日本を何度も訪れていただいて、観光、食、ビジネスで交流を深めているというのはありがたいことですね。この流れが続くようにしていかなければならないと思っています。

 

これまで赴任された国々と、そこで最も印象的だったお仕事について教えてください。

 この10年で申し上げますと、英国、そしてイスラエルにおりましたが、それぞれにチャレンジングであり得難い経験をいたしました。イスラエルの時にはちょうど日本で東日本大震災が発生いたしました。シンガポールからも、一般の方々、赤十字などからも多大なご支援をいただいておりましたが、イスラエルでも本当に色々なご支援をいただき、震災後すぐに医療チームを被災地の宮城県に送り出していただいたという経験もありました。

 

最後に、AsiaXの読者に対してメッセージをお願いいたします。

 平素から皆様方に置かれましては、活発な活動をされていることに敬意を表したいと思います。ぜひ健康に気を付けて、当地での生活やお仕事、プライベートが充実したものになることをお祈り申し上げます。大使館としましても、日星の政府関係者と連携しながら皆様方のご支援に取り組んでいきたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。
 


 
竹内 春久(たけうち はるひさ)氏
駐シンガポール 日本国特命全権大使

 
1952年米国出身。1975年に一橋大学経済学部を卒業し、外務省入省。報道課長、総務課長や在ロンドン総領事、国際情報統括官、在イスラエル特命全権大使、沖縄担当大使を歴任。2013年8月から現職。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.274(2015年02月02日発行)」に掲載されたものです。
文=石澤由梨子

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