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ビジネスインタビュー

2015年12月7日

【キヤノンシンガポール 社長兼CEO】小西 謙作さん

IT・メディア・産業の研究開発エリアへオフィスを移転。地域戦略で多様なアジアの巨大マーケットを統括

 南アジアおよび東南アジアの統括販売会社として18ヵ国のマーケットを統括するキヤノンシンガポール。2014年度の売上高は前年比微減となったが、海外売り上げ比率の高いキヤノンにとってシンガポールは依然重要な販売拠点となっている。このほど、MRT環状線ワンノース(One-North)駅直結の新しいビルにオフィスを移転。通算28年という海外での豊富な実務経験を持つ社長兼CEOの小西謙作氏に、統括するアジア市場の現状や展望などについて伺った。

 


 

目次

まず、今回のオフィス移転の目的や新オフィスの特徴をお聞かせください。

 これまで分散していたオフィスの機能を最適な形で集約し、南アジアおよび東南アジアを統括するヘッドオフィスとして、より先進的で総合的な拠点にするのが目的でした。全体の床面積を以前のオフィスより4割ほど拡大。お客様の声を直接聞くカスタマーケアセンター、初心者からプロまでが撮影テクニックを学ぶことができるスタジオ完備のカメラスクールを設けました。またショールームを充実させ、オフィス機器だけでなく、大型の業務用プリンターやネットワークカメラも展示しているのが特徴です。

 

ご自身にとって2度目となるシンガポール赴任も4年目に入られましたが、この国にどのような印象をお持ちですか?

 時代の変化に応じて非常にすばやく変わっていける国だというのが率直な感想です。私が前回2001年に赴任した時は、カジノなんてとんでもないという雰囲気でした。それが、カジノだけにとどまらず、コンベンションホールなども完備した統合型リゾートを作り上げるという話になり、今や最大の観光スポットとなっています。そういった時代を見据えて決めて実行に移すスピードが素晴らしいですね。
 

貴社はシンガポールだけでなく、南アジアと東南アジアという巨大市場を統括する拠点として、域内の多様な市場にどのように対応していますか?

 昨今、このエリアの統括会社をシンガポールに設ける動きが活発化していますが、弊社では、統括会社と各地域販売会社の役割を明確にした組織作りを行っています。統括会社としての大事な役割は、エリア全体のコーディネーションです。第1に各国の共通点を見出した後で開発し、生産に反映させる製品戦略。第2に地域全体の製品の在庫管理を行い、全体最適の流通を実現すること。第3に必要な地域への財務的なサポート。最後に、プロセスや目標の達成度合いを測るKPI(Key Performance Indicator)の設定と標準化。一方、各販売会社については、国によってGDPの差だけでなく宗教や言葉、通関対応が異なるので、主に地域戦略を用いて、広告宣伝や販売チャネルなどそれぞれの国で一番いいやり方を採用するよう努めています。

 

グループの売上高を見ると、日本、アジア、米国、欧州と大体4分の1ずつですが、このうちアジアの伸びはいかがでしょうか?

 グループ全体のアジアの売り上げ比率は、10年前の15%弱から年々上昇して25%近くまで上がってきました。昨年から今年にかけては、中国の不振や東南アジアの現地通貨安、デジタルカメラの入門機の購買層がスマートフォンに奪われていることなどが重なって残念ながら売り上げは落ちています。この通貨安や東南アジアの政治の不安定さはしばらく続くと思っているので、来年もまだ厳しい状況が続くでしょう。しかし、アジアは非常に大きな人口を抱えており、それぞれの経済は紆余曲折があるものの、全体としては伸びてきているので、中長期的には世界的にも大きなポテンシャルのある地域だと思います。

 

消費者のイメージはキヤノンといえばやはりカメラやプリンターですが、現在展開する域内の商品の具体的な構成はどのようになっていますか?またスマートフォンのカメラ機能が向上した今、カメラ事業の将来的な成長をどう見込んでいますか?

 カメラと家庭用インクジェットプリンターが半分強、オフィス機器と半導体露光装置などのB to Bが半分弱となっています。カメラは基本的には趣味の機械であったのが、デジタルカメラの普及によって「いつでもどこでも」という記録媒体としての機能が爆発的に伸びたものの、最近は確かにかなりの部分がスマートフォンに奪われてしまいました。しかし、フェイスブックなどのSNSの利用者が増える中で、風景でも食べ物でもより綺麗な写真を載せて共有したいという欲求がどんどん高まってきています。そうなると写真は単なる記録目的だけでなく、本来の趣味や表現の世界に戻り、一旦落ち込んだデジタルカメラの需要も徐々に回復していくと思っています。

 

キヤノン全体では、B to C(消費者向けサービス)よりも、B to B(企業間取引)にフォーカスしていますが、統括区域内ではどうですか?

 中国を中心にアジアではB to Cの売り上げの方が多くなっています。東南アジアではB to Cの方が若干多いのですが、今後はB to Bの方が順調に伸びていくだろうと思っています。

 

5年に1度、東京やニューヨークなど世界4都市で開催されている展示会「Canon Expo」で見られるように、これまで様々な最先端技術を開発し、アジアでも強いブランド力を確立してきたキヤノンですが、今後のブランディング計画について教えてください。

 ブランディングというのは基本的には商品を使ってもらい、その上でサービスや従業員を通じてお客様が実感していく、その積み重ねで構築されるものだと私は思っています。従来型の媒体からソーシャルメディアに中心が移る中で、今後はそれに即した形でお客様とのコミュニケーションを密にしていくことを大切にしながら、さらにブランド力を強めていきたいと思います。

 

キヤノンシンガポールは総合スポーツ施設の「スポーツ・ハブ」からパンフレットの印刷などをサポートする公式パートナーに認定されているほか、シンガポールのプロサッカーリーグに所属するアルビレックス新潟シンガポールのスポンサーを2010年から務めるなど、スポーツとの関わりも目立ちますね。

 弊社ではほかにもボウリングアソシエーションのメインスポンサーも長く務めています。日系だけでなく、それ以上にそれぞれの国の活動に密着して寄り添って力になっていきたい、あるいは一緒に発展していきたいという思いがあるので、これからもスポーツをはじめ、様々な地域活動に関わっていきたいと考えています。ちなみに、私自身も学生時代は野球をしていたり、今はゴルフや健康のためのジョギングを楽しんだりと、スポーツは好きです。
 
 また、音楽などもそうですね。経済的に豊かになったシンガポールですが、クラシック音楽やミュージカルなどの普及はまだまだです。今後は文化芸術のハブとしてもこの国が発展できるようなお手伝いもしていきたいと思っています。

 

今後の消費者向けのビジネス展開についてお考えをお聞かせください。

 革新的な商品開発を今後も進めるほか、写真に関連した様々なサービスも充実させていきます。デジタルカメラで撮った写真をパソコンやクラウド上にデータとしてただ保存しておくだけでなく、印刷し、アルバムなどの形にして将来に残しておくという昔ながらの保存法を見直す方が増えてきています。さらにはお気に入りの写真を素材にして、カレンダーやカードなどを作って楽しむ方も多くなりました。私たちは撮るだけでなく、写真を楽しむという提案を引き続きしていきたいと思っていますのでご期待ください。

 


 
小西 謙作(こにし けんさく)氏
キヤノンシンガポール社長兼CEO

 
1953年生まれ、愛知県名古屋市出身。1978年キヤノン入社後、オーストラリア、米国のほか、香港やインドなどのアジアに赴任。シンガポールでは2001年から2003年までキヤノンマーケティングシンガポール社長兼CEOを務め、2012年2月にキヤノンシンガポール社長兼CEOに就任。「シンガポールは日本人にも馴染みやすく、リラックスして住める国ですね」趣味はクラシック音楽で、時間を見つけてはエスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ(Esplanade Theatres On The Bay)などのコンサートホールに足を運ぶ。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.293(2015年12月07日発行)」に掲載されたものです。(取材:安部 真由美 写真:有田 紳介)

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