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ビジネスインタビュー

2016年4月5日

【Kikkoman Singapore】茂木 修さん

日本の味、しょうゆを世界の食卓に。キッコーマンの次なる世界戦略

 全世界にしょうゆを販売しているキッコーマン。本格的に北米市場に進出した1957年以降、その販売数量は順調に伸び、2014年3月期の決算では国内外の売上高が初めて逆転した。アジア市場では、1983年にキッコーマン・シンガポール工場を設立、現在260品目を製造し、世界約40ヵ国に向けて出荷する重要な生産拠点となっている。ローカルブランドからナショナルブランド、そしてグローバルブランドへと成長してきたキッコーマンで世界戦略の陣頭指揮を執る茂木修氏に、今後の展望などについて伺った。

 

まず、2008年4月に策定された「グローバルビジョン2020」についてお聞かせ下さい。

 これは、2020年の時点でキッコーマンが社内外の人からどういう会社だと思われていたいのかということを考え、「目指す姿」や「基本戦略」を定めたものです。
 
 ①キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする。
 ②食を通じた健康的な生活の実現を支援する企業となる。
 ③地球社会にとって存在意義のある企業となる。
 
 この3点が柱となっています。①については必ずしもしょうゆだけの目標ではなく、キッコーマンをより挑戦的な企業にしていくというメッセージも込められています。社内的には社員がひとつのベクトルに向かって力を発揮するとともに、社外にも公表することで、2020年になった時に果たしてキッコーマンがこういう会社になっているかどうかを皆さまに評価していただきたいと思っています。

 

1950年代の米国進出以来、海外での本格的な事業展開から半世紀あまりが過ぎ、キッコーマンのしょうゆは世界100ヵ国以上で親しまれています。これほど受け入れられている要因は何だとお考えですか?

 当社で「本印(ほんじるし)」と呼んでいるスタンダードなしょうゆは世界共通ですが、従来の「良い物を作っていれば売れる」という単純な考え方だけではなく、多種多様な食文化の中にどうやって入り込んでいけるかを課題として努力してきました。例えば、米国ではステーキに合うしょうゆベースのテリヤキソースを販売して成功しました。欧州では、製造販売会社を立ち上げる前にレストランをまずドイツで開店し、肉を焼く時にしょうゆで味付けをして消費者の方々においしさをわかっていただくことでしょうゆの普及につなげました。バーベキューが盛んなオーストラリアでは、ハチミツやりんごジュースを入れた甘いソースが人気商品となっています。
 
 そもそもしょうゆは、五味(酸味、苦味、甘味、辛味、塩味)のバランスが良く、醸造過程で様々な旨み成分や約300種類の香り成分が生まれる世界的にも珍しい調味料です。それだけ複雑なので色々な国の食事の中に入っていっても新しい美味しさを付加することが可能です。そうしたしょうゆが持つ潜在力と弊社の努力で各食文化に入り込んでいったこと、それが世界中で弊社製品を使っていただいている理由だと思います。

 

現地の食文化に溶け込むような適応化が鍵ということですね。それはアジア市場でも同様なのでしょうか?

 魚料理が多いベトナムやカンボジアでは、当社の生姜を効かせたソースが味付けのひとつとして消費者に選ばれています。ただ、ASEAN域内には既にしょうゆに似た調味料があるということや、ASEAN自体がひとつの市場ではなく食文化によって大きく分かれるパッチワークのような市場なので、そのひとつひとつのピースを埋めていくような活動を進めないと浸透していかないなど、欧米市場と違った難しさがあります。それぞれの国や地域に合わせたテーラーメイドの戦略に取り組みながら開拓を続けています。

 

今後、人口約16億とされるイスラム圏の市場も世界戦略上重要かと思われます。醸造過程でアルコールが含まれる醤油を、アルコールが禁忌であるムスリムの消費者に広めるための戦略を教えてください。

 中東向けの商品はアルコール分をほぼゼロにし輸入許可を取得販売しています。多宗教のアジアでは、イスラム教が禁じているものを含まない食品であることを証する「ハラル認証」を取得し、これがハラル食品だとわかるようにしています。ただ、現段階では、日本の味を出したいけれどムスリムの消費者向けのものを作りたいというレストランや食品加工メーカー向けのみに販売しており、今後スーパーに並べるなどの選択肢も含め、最終消費者にどのようにお届けできるか戦略を練っているところです。

 

世界的には和食ブームで日本食レストランも急激に増えましたが、シンガポール工場での生産量に影響はありましたか?

 刺身用、寿司用しょうゆなど和食メニュー向けのラインナップは増えました。生産量については、今年初めて30年前の5倍にまで増加する見込みで毎年着実に伸びている状態です。これはしょうゆを和食のためだけではなく、現地の生活に溶け込むような食品として作っていきたいという思いから、和食ブームに乗って急に生産量を増やすようなことはせず、地域の需要に合わせて生産しているからです。

 

地域に溶け込むという面では、環境保護活動の支援にも積極的ですね。

 はい、シンガポールでは進出25周年の際にガーデン・バイ・ザ・ベイのキングフィッシャーレイクの造成、昨年の30周年では植樹事業に寄付を行いました。シンガポールに限らず、当社の製造拠点のあるところでは5年に一度、祝賀行事に合わせて地域に貢献できることを行っています。地域と共存してこそ長期的な利益につながるので、今後も長く続けていきたいと思っています。
 
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2015年10月、マングローブの記念植樹を行うキッコーマンの茂木友三郎取締役名誉会長(写真中央)と茂木修氏(左から9人目)

 

これだけグローバルに展開する企業のリーダーとして、マネジメント上心がけていることは何ですか?

 挑戦的な体質を維持していくことです。アジアもまだこれからですし、中南米やアフリカといった地域も実際に現地に行き、市場として有望だという実感を得ました。ますますチャレンジする心構えを持って開拓を進めていきたいと思っています。
 

入社以来、思い出深いエピソードはありますか?

 入社して最初に配属された新商品を企画する部署で、従来とは違う新しいタイプのしょうゆを企画し、社内で賛否両論ありながらも半年後に実際に製品化しました。スーパーに並んだ製品を自分で買った時の嬉しさは忘れられません。メーカーに就職してよかったと思いました。
 

最後にAsiaX読者へメッセージお願いします。

 東京オリンピックの誘致や和食のユネスコ文化遺産登録など、ここ数年で日本が再び海外で話題に上るようになりましたが、日本にはもっともっと元気になってもらいたい。私自身、シンガポール国立大学でしょうゆについて講義する機会もあり、私なりに日本を世界に発信していきたいと思っています。皆さんもオールジャパンで日本をアピールしていきましょう。
 


茂木 修(もぎ おさむ)
キッコーマン株式会社 常務執行役員 国際事業本部副本部長
Kikkoman Singapore Pte Ltd マネージングダイレクター

 
米国シカゴの監査法人で勤務したのち、1996年にキッコーマン入社、2015年6月よりキッコーマン・シンガポール社マネージングダイレクター兼任。東京をベースに世界の製造拠点を飛び回る。「シンガポールの人々の表情はいつも自信に満ちていて、国の発展とはこういうものなのかと訪れるたびに感じます」。座右の銘は「六然(りくぜん)」。何か事が起きた時はぐずぐずしないでやること、何事もなき時は水のように澄んだ気持ちでいること、など6つの心構えを教える中国の言葉で、手帳に書かれたこの教えを見て「平常心を保ち、嫌なことは引きずらずにポジティブに行動するようにしています」。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.299(2016年04月04日発行)」に掲載されたものです。(取材・写真:安部 真由美)

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