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2020年11月10日

ベトナム不動産業界:工業用地の価格が最高値に、コロナ禍でも需要急増

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 新型コロナウイルスの感染拡大で世界各地の不動産市況が低迷を強いられているにもかかわらず、ベトナムの工業用不動産価格が右肩上がりの上昇を演じている。ベトナムの感染抑制策が功を奏していることに加え、中国からベトナムに工場を移転する動きが一段と加速しているためだ。こうしたなか、北部では工業用地の価格が最高値を更新した。
 

ベトナム:北部工業用地が最高値更新、脱中国で需要拡大

 ベトナム北部で工業用地の価格が過去最高水準に跳ね上がっている。中国から移転する企業の増加で需要が拡大。不動産サービスの米ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)によれば、2020年第3四半期の工業用地価格は前年同期から7.1%上昇し、過去最高の1平方メートル当たり平均102米ドルを付けた。VNエクスプレスが10月3日付で伝えた。
 
 北部の工業団地の入居率は74%で、第1四半期から1.6ポイント上昇。JLLによれば、とりわけ中国から生産を移すハイテク企業が増えている。
 
 ただ、供給はハイフォン市とバクニン省で豊富にあり、近く起こると予想される移転ラッシュを十分に吸収できる見通し。5年スパンでみても需要を満たせるとJLLは予想している。
 
 同社は、新型コロナウイルス流行により海外から現地視察に訪れることはできないが、それでも将来に域内の工業ハブとなるベトナムへの関心は高いと説明。工業団地デベロッパーはバーチャルツアーやウェブセミナーを行うことで売り込みをかけているという。
「亜州ビジネスASEAN」2020年10月6日付ニュース)
 
 
 米中対立のマイナス影響を避けたい海外大手メーカーは、すでに昨年から「脱中国」の動きを表面化させている。中国と隣接する有利な地理的条件もあり、「脱中国」の恩恵を最も受けているのがベトナム。それを象徴するのは、昨年10月にサムスンが「中国のスマートフォン生産を終了し、ベトナムやインドに生産設備を移管する」と発表したことだ。
 

サムスンが中国のスマホ生産終了、越印に移管へ

 韓国のサムスン電子は2019年10月2日、中国のスマートフォン生産を終了したことを明らかにした。同国では市場シェアが落ち込む一方、人件費が上昇しており、事業効率が悪いと判断。対米輸出で高い関税が課されるリスクも考慮し、ベトナムやインドに生産設備を移管する。複数の外電が伝えた。
 
 中国で運営していた複数の工場のうち、天津工場が1年前に閉鎖。2019年6月には広東省恵州で工場1カ所を閉鎖し、その数か月後に恵州のもう1つの工場で生産を終了した。サムスンは声明を出し、事業効率化を図る中で、恵州工場の閉鎖という難しい決断に至ったと説明。ただし中国での販売は続けるとしている。
 
 外電は中国スマホ工場の閉鎖理由が少なくとも3つあると指摘。1つは中国市場におけるシェア低下で、小米科技(シャオミ)やファーウェイ(華為技術)など国産ブランドの台頭により、サムスンのシェアが2013年半ばの15%から1%まで奪われたことがある。2つ目は中国の人件費上昇で、他国に比べて魅力が薄くなったこと。3つ目は米中貿易摩擦が長期化する中、米国がサムスンのスマホに高い関税を課すリスクを拭えないこととしている。
 
 サムスンはベトナムにスマートフォンの製造子会社2社を持ち、同社のスマホ世界生産の半数を手掛けている。ベトナムにはほかにも家電や液晶ディスプレー(LCD)の製造子会社を持ち、2018年の輸出額は前年比12%増の600億米ドルに上っている。
 
 インドでは7億米ドルを投じ、2018年に世界最大のスマホ工場を開設。同工場の年産能力は2019年にも1億2000万台に達する見通しという。
「亜州ビジネスASEAN」2019年10月3日付ニュース)
 

当面の間は「脱中国、ベトナム移転」か

 「脱中国」の大きな要因となっている米中対立の激化は、一朝一夕に収束するものでなはい。一部で「対中強硬スタンスのトランプ氏が米大統領選に敗れ、親中派のバイデン氏が勝利すれば米中関係が大きく改善する」と期待する向きもあるが、中国が新型コロナウイルスを世界にまん延させたとの非難が強まる中、米国民の対中感情が簡単に和らぐ可能性は低い。米ビュー・リサーチ・センターの調査(2020年7月30日公表)によれば、中国について「好ましくない」と回答した人の割合が73%に上昇し、2年前(2018年)から26ポイントも増加している。
 
 こうした世論の下では、仮にバイデン氏が新大統領に就任した場合でも、一気に対中融和に転じることはないと考えられよう。つまり、当面の間は「脱中国、ベトナム移転」の流れが止まらないというわけだ。
 

カントー工業団地(亜州リサーチ撮影)

 
 もちろん、感染抑制が成功しているとはいえ、自粛が長期化していたことに伴い都市部の不動産市況は多大のマイナス影響を受けている。一部の報道によれば、高級物件の賃貸相場はコロナ前から約20%値下がりした。販売価格も同程度の下落とみられ、この点は、他のアセアン諸国と同様といえる。
 
 ただ、工業用不動産の市況も思わしくない他地域と異なり、「脱中国」の追い風が吹くベトナムは不動産が総崩れにはなっていない。この需要が続く限り、不動産投資全般もそれほど痛手を受けないだろう。
 

「亜州ビジネスASEAN」不動産業界リポートより

 
 「脱中国」で中国からの生産移転が進む中、工業用不動産の需要は今後も増加の一途をたどりそうだ。これを見据えた最近の動きとしては、地元デベロッパーによる巨大工業団地の開発が挙げられる。TIZCOとベトナム・イノベーション・パークス・マネジメントは今年5月、南部ロンアン省でベトナム国内最大規模となる面積1,800万平方メートルの「ベトファト工業団地」の建設に着手した。北部だけではなく、南部でも工業団地の需要が高まりそうだ。
 

(亜州リサーチASEAN編集部)
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