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亜州ウォッチ!

2020年10月10日

フィリピン石油化学業界:シェルの「老舗製油所」閉鎖、コロナ禍による苦境を象徴

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 フィリピンで100年以上の歴史を持つ現地3大石油元売りの1社、英蘭系ピリピナス・シェル・ペトロリアム(PSPC)は8月12日、「1962年から操業していたバタンガス州の製油所を閉鎖する」と発表した。これに先立ちシェルは7月にも、インドネシア・アラフラ海のマセラ鉱区で計画中の大型液化天然ガス(LNG)事業から撤退する方針を明らかにしているが、フィリピンで中核的な役割を果たしてきた「老舗製油所」の閉鎖によって、需要低迷に苦しむ石油化学業界の実態が改めて浮き彫りにされた格好だ。
 
 まず、ピリピナス・シェル・ペトロリアム(PSPC)の立ち位置を確認しておく。フィリピンで古くから事業を展開している同社は、財閥大手サンミゲル傘下のペトロン・コーポレーション(PCOR)に次ぐ石油製品販売シェア2位。3位のシェブロンを大きく引き離し、元売り大手として確固たる存在感を示している。
 

 
 次に、存在感の大きい業界2位の同社が「老舗製油所」を閉鎖せざるを得なかった経緯を「亜州ビジネスASEAN」のニュースで振り返ってみる。
 

フィリピン:シェル現法が製油事業から撤退、輸入に切り替え

 英蘭系ピリピナス・シェル・ペトロリアム(PSPC)は8月12日、現地の製油事業から撤退すると発表した。ルソン島バタンガス州の製油所を閉鎖し、最終製品の輸入・貯蔵施設に改装。国内で販売する石油製品は今後、すべて輸入品に切り替える。新型コロナウイルスの影響による需要減で製油マージンが悪化し、今後も採算を確保するのは困難と判断した。同製油所は1962年に稼働を開始したが、新型コロナの流行で今年5月下旬から操業を停止していた。
 
 製油所を閉鎖して輸入に切り替えた後も、タバンガオからルソン地域と北部ビサヤ地域に石油製品を供給する。それ以外の地域への供給は、引き続きミンダナオ島のカガヤンデオロにある北ミンダナオ輸入施設(NMIF)を利用する。
 
 新型コロナ対策の移動制限などの影響により、国内の石油製品需要は大きく減少。エネルギー省によると、2月との比較で3月は2~3割減、4月は6~7割減だった。
 
 4月には原油価格が大きく下落しており、同社の石油製品価格は現状でコスト割れかコストと同程度の水準にあるという。2020年上半期の最終損益は67億ペソ(約146億円)の赤字に転落(前年同期は37億ペソの黒字)。販売減のほか、多額の在庫評価損を計上したことが響いた。
(「亜州ビジネスASEAN」8月13日付ニュース)
 
 
 ニュースにもあるように、今年春先からの原油価格は新型コロナの感染拡大と歩調を合わせるように大きく下落した。代表的指標のWTI原油先物は、今年1月初旬までは上昇基調を示していたものの、新型コロナの警戒モードが強まった2月から4月にかけて急落。5月以降は持ち直す傾向にあるが、8月末時点でなお、1月につけた高値を約3割も下回る水準に低迷している。
 

 
 新型コロナによる経済的なマイナス影響を巡っては、とかく観光・航空・外食産業などがクローズアップされがちだが、経済活動の停滞によるダメージは、当然ながら他の業種にも広く及んでいる。もちろん、経済活動全般に深く関係する石油産業も例外ではない。
 
 ピリピナス・シェル・ペトロリアム(PSPC)による同製油所の閉鎖は、それを裏付ける動きと言ってよい。今後は他の主要産業でも、同様のショッキングな事例が散見されることとなろう。  

(亜州リサーチASEAN編集部)
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