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2020年9月10日

ベトナムで電力消費が急拡大中、商機とみた日本企業の進出相次ぐ

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 前回の本コーナーで、「ベトナムの2020年GDP成長率は、東南アジアで最も高い4%超を達成する見通し。アジア開発銀行がプラス4.1%と予想するなど、東南アジア全体のマイナス2.7%を大きく上回る可能性が高い」と述べたところだが、ベトナムでは電力消費も急拡大が続いている。
 
 まず、これまでの電力消費動向を確認しておこう。2014年に12万8,456ギガワット時(GWh)だった同消費量は、2019年には21万202GWhまで拡大。わずか5年間で、実に64%もの増加を記録した計算だ。直近の2019年も、前年比10.3%増と2桁の成長を記録している。
 

 
 電力消費が伸び続ける背景には、米中対立によるマイナスの影響を回避すべく、各国の企業が中国からベトナムへ生産拠点をシフトさせていることがある。工場の移転が急ピッチで進むにつれて、電力の需要・消費も大きく増加するからだ。
 

日本企業の進出ラッシュ

 こうしたベトナム電力市場の急拡大は、当然ながら海外の電力企業がビジネスチャンスと捉えている。もちろん、日本の電力会社やエンジニアリング会社にとっても大きな商機だ。特に2019年は、日本企業の進出が目立った。以下、主だった動きをまとめておく。

火力発電プロジェクト

 東芝エネルギーシステムズ(以下:東芝エネ)とIHI、住友商事が2019年8月、「南部カインホア省に建設する石炭火力発電所のEPC(設計・調達・建設)業務を受注し、着工した」と発表した。東芝エネは蒸気タービンや発電機など、IHIはボイラー2基と付帯設備の供給や据え付け工事などを担当。出力1320メガワット(MW)を持つ超臨界圧方式の発電所で、2023年の商業運転開始を目指す(日系3社のほか、台湾のCTCIコーポレーションと韓国の斗山重工業を含む4社のコンソーシアムで受注した)。
 
 また、東北電力は2019年3月、「丸紅と韓国電力公社が折半出資する北中部タインホア省のギソン2石炭火力発電事業に出資する」と発表した。丸紅から事業会社の株式10%を取得。東北電力の出資後、ギソン2パワーの持ち分比率は韓国電力が50%、丸紅が40%、東北電力が10%となる。同事業では出力1200MWのタービンを設置し、2021~22年の稼働を予定している。

太陽光発電プロジェクト

 フジワラ(本社:東京都港区)が2019年7月、中南部ビンディン省で出力50MWの太陽光発電所を完工し、6月末に運転を開始したと発表した。年間の発電量は、ベトナムの一般家庭3万2,301世帯分の電力消費量に相当する6万952メガワット時(MWh)を見込む。
 
 また日揮は19年6月、「南部タイニン省で建設した太陽光発電所2カ所(合計の出力は120MW)の開所式が行われた」と発表。2カ所とも複合企業のタインタインコン(TTC)グループとタイの独立系発電事業者(IPP)ガルフ・エナジー・デベロップメントの合弁会社が操業する。日揮は18年末にも、中部ザーライ省で出力70MWの太陽光発電所を完工。ザーライ電力会社からEPC(設計・調達・建設)契約で受注し、同社がすでに商業運転させている。
 
 さらにシャープは2019年6月、「子会社のシャープエネルギーソリューションが中部クアンガイ省で太陽光発電所を建設した」と発表した。タイの太陽光発電業者であるスームサン・パワー・コーポレーション(SSP)などとの共同で、出力は49MWに上る。これでシャープがベトナムで太陽光発電所を建設するのは4カ所目となり、合計の出力は195MWに拡大した。
 
 同様に出光興産も2019年5月、「グループ会社の昭石オーバーシーズ&インベストメント(SOI)が出資する南部カインホア省の太陽光発電所が完工した」と発表。出力は49.5MWに上り、東南アジアでの電力事業は同グループにとって初という。年間発電量は約7万8600MWhを見込む。
 

 
 なお、前述のプロジェクトで太陽光発電に関連するものが多かったのは、ベトナム政府の方針に沿った動きとみられる。発電全体に占める再生エネルギー(水力、太陽光、風力)の比率は、2018年時点で10%程度にとどまっていたが、政府は2030年までに同比率を21%まで引き上げたい考えだ。
 
 日照時間に恵まれたベトナムは、再生エネルギーの中でも特に太陽光の伸びしろが大きいはず。国内外の企業は今後、太陽光発電プロジェクトへの参入を加速させていくこととなろう。
 
 ただ、2019年12月以降は太陽光発電の新規プロジェクトが認可されていない状況。送電網の整備や電力需給のコントロールが進まないなか、供給過多によるオーバーロード(過負荷)が発生しやすくなっているためだ。太陽光をはじめとする再生エネルギーを普及させるためにも、こうしたインフラの整備がベトナムにとって喫緊の課題となろう。もちろん、これに関連するインフラ整備も日本企業にとってはビッグチャンスだ。

(亜州リサーチASEAN編集部)
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