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2020年8月12日

アセアンのコロナ勝者はベトナム、感染抑制で経済V字回復へ

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 アセアン域内では現在、新型コロナウイルス抑制の成功組と失敗組に二極化する状態だが、単に感染拡大を抑えただけではなく、経済被害を最小限にとどめることにも成功したのがベトナムだ。
 
  まず、域内主要国の感染状況を概観してみる。成功組はベトナム、タイ、マレーシア、失敗組はフィリピン、インドネシア、その中間がシンガポールということができよう(シンガポールは感染者が多いものの、大多数が宿舎暮らしの外国人労働者であり、市中感染がコントロールされている状態)。成功組のベトナムとタイ、失敗組のフィリピンとインドネシアに関し、感染状況の月次推移を図表化しておく。
 

 
  成功組の中でもベトナムは、国内感染が確認された初期段階で政府が迅速な対策を講じたため、6月以降は新規の感染者がほとんど出ていない状況(累計の感染者数は6月末時点で355人と低水準。死者はゼロ)。これにより経済的なダメージを最小限にとどめることができたため、今年は東南アジアで最も高い4%超のGDP成長率を達成するとの見方が多い(アジア開発銀行はプラス4.1%と予想。東南アジア全体のマイナス2.7%を大きく上回る)。コロナの警戒モードが続いた第2四半期は同成長率が0.36%に減速したものの、その分、第3四半期以降のV字回復が見込まれることになる。
 
  実際、6月には早くも製造業や小売業の動向を示す経済指標が大きく改善しはじめた。以下、鉱工業生産指数と小売・サービス業売上高のプラス転換を取り上げた弊社ニュース2本を転載する。
 

【News 1】6月の小売・サービス業売上高、4カ月ぶり増加

  ベトナム統計総局は6月29日、2020年6月の小売・サービス業売上高が前年同月比5.3%増の431兆ドン(約1兆9,900億円)だったと発表した。前年同月を上回るのは4カ月ぶり。新型コロナウイルス対策であるソーシャルディスタンス(社会的距離)措置の影響で、3~5月は縮小していた。
 
 業種別にみると、小売りは9.4%増の337兆ドンで唯一増加。ホテル・レストランは8.3%減の46兆ドン、観光は50.7%減の2兆ドンでともに5カ月連続で減少したが、下げ幅はともに縮小した。その他サービスは2.1%減の46兆ドンだった。
 
 前月比でみると、全体の売上高は6.2%増加。業種別では、小売りが4.7%増、ホテル・レストランが12.8%増、観光が268%増、その他サービスが7.6%増と軒並み拡大した。
 
 1~6月の小売・サービス業売上高は前年同期比0.8%減の2,381兆ドン。小売りが3.4%増の1,896兆ドンとやや拡大した一方、ホテル・レストランは18.1%減の235兆ドン、観光は53.2%減の10兆ドン、その他サービスは7.4%減の240兆ドンと大きく落ち込んだ。 (「亜州ビジネスASEAN」6/29付ニュース)
 

【News 2】6月の鉱工業生産7%増、3カ月ぶりプラス

 ベトナム統計総局は6月29日、2020年6月の鉱工業生産指数(IIP)が前年同月から7.0%上昇したと発表した。上昇は3カ月ぶり。新型コロナウイルス対策である移動制限の影響で4~5月はマイナスだったが、経済活動の再開に伴いプラスに転じた。
 
 産業別にみると、製造業は10.3%上昇。3カ月ぶりのプラスとなった。製造業の中では25部門のうち23部門がプラス。最も伸びたのは石油製品で38%。これに「その他運輸設備」が27.7%、「その他非金属鉱物製品」が10.8%で続いた。一方、最も低下したのは「その他加工・製造」でマイナス32.6%だった。製造業以外では、電力が1.7%、水道・廃棄物処理が2.2%のプラス。鉱業はマイナス8.9%だった。
 
 1~6月のIIPは前年同期比で2.8%上昇。産業別では製造業が4.6%、電力が2%、水道・廃棄物処理が2.8%のプラス。鉱業は7.9%のマイナスだった。 (「亜州ビジネスASEAN」6/30付ニュース)
 
 
 景気の急回復が期待される背景には、コロナ感染抑制の成功に加え、米中貿易戦争がもたらした「漁夫の利」もある。米国の追加関税を逃れるため、中国企業がベトナムに生産拠点を構える動きが加速したのだ。この流れは、すでに19年から表面化しはじめている。同年の対ベトナム投資件数は、中国と香港がそれぞれ前年比65.6%、64%増と際立つ状態。同年はまた、米国によるベトナムからの輸入金額も17年比で43.5%増と突出し、タイ(7.5%増)やマレーシア(8.6%増)を大きく引き離した。当然ながら、この動きはベトナム経済全体を下支えしていくことになる。
 
 貿易に関連する他のポジティブ要因としては、EUベトナム自由貿易協定(EVFTA)の締結も挙げられよう(今年6月にベトナム国会で批准。早ければ8月にも発効)。EVFTAの発効後は、ベトナムからEUへの輸出品の71%とEUからベトナムへの輸出品の65%に対する関税が即時撤廃される。これがベトナムにもたらす経済効果にについて、世界銀行は「30年までにGDPを2.4%、輸出を12%押し上げる」と予想した。
 
 コロナ対策に成功したベトナムは、恵まれた経済環境の下、「アフターコロナ」でも勝者になりそうだ。

(亜州リサーチASEAN編集部)
亜州ビジネスASEAN https://ashu-aseanstatistics.com/

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