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法律相談

2020年8月14日

Q.シンガポールにおける債権回収の実務 ~日本と異なる催告書に関するルールについて~

このコーナーでは、読者の皆様のお悩み・ご相談を、会計・税制、 法律のプロフェッショナルが無料でお答えします。

催告書とは

 Q. 取引先企業からの支払いが滞っています。何度もメールや電話で督促をしたのですが、支払ってもらえず、正式な催告書を送付したいと考えています。催告書を自社で準備することはできますか。
 
 A.シンガポールでも日本と同様、期日までに債務者が債務の支払いを履行しない場合には、債権者が債務者に対して、催告書(Letter of Demand, Letter of Claims)を送付することが一般的です。催告書は、債務者に対して、自主的な支払いを促す最終通告としての機能を有しています。
 
 自社で催告書を準備することもできますが、法律事務所のレターヘッドが付された催告書を送付する場合には、催告書を受け取った債務者が債務の支払いについてより真剣に捉えることから、自主的な債務の弁済に繋がりやすく、解決に至る可能性が高まります。
 

催告書を作成する際の注意点

 Q. シンガポールで催告書を作成する際に、注意しなければならない点を教えて下さい。
 
 A.一見、シンガポールの催告書も、日本の催告書と同じ機能を有するように思われますが、シンガポールでは、日本と異なる特別なルールがあります。ルールを知らずに日本の催告書と同じように考えて対応してしまうと、思わぬ不利益を被ることがあるため、注意が必要です。
 
 シンガポールでは、「企業間でなされる25万Sドル未満の請求」の場合には、次の事項を記載した催告書を作成する必要があると決められています。取引の形態により、記載しなければならない内容は多少異なりますが、典型的な契約書に基づく契約の場合に記載しなければならない事項としては、
 (ア) 債権者名
 (イ) 債務額
 (ウ) 利息等の有無
 (エ) 契約締結日
 (オ) 契約当事者
 (カ) 契約書の写しを債権者に請求することができる旨
 (キ) 債務の支払方法の詳細
 (ク) 裁判外の紛争解決手続きの提案 などがあります。
 
 裁判外の紛争解決手続きの提案には、シンガポール調停センター(Singapore Mediation Centre)、シンガポール国際調停センター(Singapore International Mediation Centre)、シンガポール法曹協会調停スキーム(Singapore Law Society Mediation Scheme)の利用が挙げられます。
 
 また、催告書には、合理的な応答期限を設ける必要があるとされています。特に注意が必要な点は、「企業間でなされる25万Sドル未満の請求」の場合には、原則として、28日以上の応答期間を設けなければならないとされている点です。緊急性がある場合には、例外も認められていますが、その場合には応答期間を28日未満に設定する合理的な事情が求められています。合理的な事情がないにもかかわらず、「2週間以内に支払うように」など28日未満の応答期限を設けてしまうと、ルールに従わない催告書を送付したということで、裁判手続きに移行した場合に、裁判所から制裁を受ける可能性があるので注意してください。
 
 催告書を送付する際には、書留郵便等を利用する必要があり、相手方のプライバシーに配慮して「Private and Confidential: to be opened by addressee only」と表記する必要がある点にも注意が必要です。
 

催告書を受領した際の注意点

 Q. 催告書を受領しましたが、相手方企業の主張にはまったく理由がなく、弊社の主張が正しいことが明白なので、放置しておいても構いませんか。
 
 A.日本では、取引相手の企業から送られてきた催告書に対して、何らの返答をしなくても、裁判所から制裁を受けるといったことは基本的にありません。一方、シンガポールでは、取引相手の企業から送られてきた催告書に返答をしない場合は、裁判手続きに移行した際に、裁判所から制裁を受ける可能性があります。したがって、催告書を受領した場合には、放置をしないで、ルールに従った返信を期限内にすることが重要です。
 
 催告書の返信内容としては、催告書に記載された請求内容に対して、認める場合は返済条件、否認する場合は否認する理由を記載する必要があります。催告書の記載の内容が不十分で認否ができない場合には、認否のためにどのような追加情報が必要であるかを明記する必要があります。また、提案された裁判外の紛争解決方法について応じるか否かの返答をする必要があり、応じない場合には代替の手続きを提示する必要があります。
 
 指定された期限内に回答できない場合には、少なくとも受領通知を送付し、「追って回答をする予定である」などと返信をすることが重要になります。

 

裁判上の制裁とは

 Q. ルールに従わなかった場合の制裁とは何ですか。
 
 A.シンガポールの裁判所は、当事者に合理的な行動をとるように求めています。これは、裁判手続き前の催告書送付の場面においても同様です。裁判所は、合理的な理由がないにもかかわらず、催告書に関するルールに従わなかった当事者に対して、制裁として、相手方に生じた余分な費用や訴訟費用の支払いを命じることがあります。このような制裁は、裁判の勝敗に関係なく科されるため、勝訴した債権者に対しても、科される可能性が十分にあります。このような制裁は、日本の裁判制度では一般的に採られていないため、特に注意が必要です。
 
 以上のとおり、催告書を送付する場合や催告書を受領した場合には、今後の裁判の展開も踏まえた上で、戦略的な対応をすることが望ましいといえます。裁判になってから制裁を受けたり、不利益を被ったりしないように、早めに専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子

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