2008年7月7日
座談会「求め求められる企業と人材」(2)
人材市場の現状と問題点
AsiaX
企業の採用の現場が直面している問題を教えて下さい。
大橋
シンガポール現地法人は現在社員約100名、うち日本人駐在員が10名です。ローカルスタッフの採用のみを行っていますが、ここ1、2年退職者が増えているのが現状です。シンガポール人の職に対する考え方が異なるとはいえ、採用してすぐに辞められてしまうこともあり、対応に苦慮しています。日系企業特有の雰囲気に馴染めないと言って入社2、3日で辞めるケースもあり、実際の理由は定かではありませんが、やや安易に会社を辞めて移るといった状況が見受けられます。
会社組織のしくみや雇用待遇を必要に応じて改善するとしても、最初からひとつの会社に長く勤めることが一般的ではない環境で、会社の自助努力でどこまでそれを食い止めることができるか疑問が残ります。ボトムアップで人が育たない状況で、必要なポジションの職能をもった人を外から採用するケースがほとんどですから、定着への期待が薄い環境で、教育研修など長期的なキャリア開発システムを導入することにも正直戸惑いがある訳です。一方で、人材紹介会社に紹介を依頼しても、現実的になかなか期待する候補者が上がってこない現状もあります。
永井
私が来星した89年ごろは景気もよく、弊社にも20名程スタッフがいましたが、今は8、9名の規模です。というのも、システム開発という業務は、プロジェクトによって山がありますから、必要な場合に人が増やせるよう、正社員を増やすよりも契約社員を中心にフレキシブルに対応しています。現在の社員のうち、1人は勤続20年の女性、1名は10年目、2名は8年目になります。彼らがコア・メンバーとなり、その他のスタッフが随時入れ替わる状況で都度採用をしています。独自に採用活動をしたこともありましたが、ダイレクトに300通ほどの履歴書が送られる結果となり、選定するだけでも大変な作業で、いまでは再び人材紹介会社の力を借りています。
AsiaX
コア・メンバーとして、社員が定着している秘訣は何でしょう。
永井
私自身のマネジメントのスタイルに、少々いい加減な所がありまして、堅苦しくない所がいいのかもしれません。無論マネジャーに対してはそれなりの給料を出しますが、それ以外は平均的な給与や福利厚生のシステムです。コア・メンバー達が長く勤務していることで、顧客のシステムをアップグレードする際に導入時の状態なども把握していたりと、顧客との繋がりの部分で助かっています。
AsiaX
企業における人材の獲得と定着に問題が認識される中、人材紹介会社は現状をどうご覧になりますか。
渡部
昨年もシンガポールのGDPも7.2%増加していますし、全体に景気がよく、65%の企業は社員を増員する予定です。人材の需要が増加する中、給与の水準が上がっているのも事実です。我々としてもNUS(シンガポール国立大学)などへ学校訪問をしたり、ジョブフェアに参加したりと、広く人材の確保に努めています。
定着が難しいという面では、既存の給与体系と求職者の希望する基本給が合わないという理由がまず挙げられます。後任を探す場合など、我々も期待に添えるよう全力でお探しするものの、給与が見合わず早急にご紹介できる人材がいない現状があります。
大手の企業になるほど、従業員も多いので、周囲との給与格差を防ぐため、新しく雇う人材の給与を低めに設定せざるを得ない場合が多い。NUS(シンガポール国立大学)卒の新卒の人材を雇った際、弊社の社内でもその現象が顕著に見られ、できる範囲でローカルの大卒の給与を上げる手を打ったものの、結局見合わず彼らは辞めていきました。弊社ではその後、ポリテクニック(工業専門学校)卒の若い18歳の新卒をコンサルタントとして採用しました。給与面でも合致した上、こちらは定着し頑張って働いてくれています。ひとつの施策として、この事例を顧客にご紹介することもあります。
AsiaX
では、現地採用の日本人スタッフの傾向は、いかがでしょうか。
渡部
まだまだ日本人の需要が多いシンガポールで、最近は、日本からの求職者に加え、オーストラリアやイギリスへ留学された方が当地で登録、就職活動するケースが増えています。シンガポールでは、英語力がありそこそこの経験があれば仕事が見つかるケースが多く、日本に戻るよりは東南アジアで働きたいということでしょう。彼らは、9割以上の高い確率で仕事を見つけています。一般的に給料の水準に変化はさほどありませんが、業種もサービス業から電子電気関連の業界まで幅広いです。
AsiaX
人材紹介会社に人材をお願いしてもなかなか紹介がこないケースもあると聞きます。探している職種によっても差がありますか?
渡部
給与帯にもよりますが、事務、経理スタッフ等の人材は良く動いています。が、ITや技術専門職の分野の人材については、なかなか探し切れていない現状があり、1人紹介できても、諸条件が合わず別の人材を希望された場合、すぐに次の方を紹介できないこともあります。
- a href=”https://www.asiax.biz/biz/550/”>1はじめに・参加者プロフィール
- 2人材市場の現状と問題点
- 3採用と定着のポイント
- 4求人求職、その先の関係性づくり・座談会を終えて
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.125(2008年07月07日発行)」に掲載されたものです。
文=桑島千春