シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPタイ航空業界:新型コロナウイルスで経営危機、政府支援が不可避か

亜州ウォッチ!

2020年5月11日

タイ航空業界:新型コロナウイルスで経営危機、政府支援が不可避か

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ASEANの航空業界に強い逆風が吹いている。移動制限などにより、域内各国で軒並み旅客数が大幅に減少しているのは周知の通りだ。中でも、タイの航空業界にはネガティブな話題が多い。
 
 経営難が続いていた国営航空大手のタイ国際航空は3月12日、スメート・ダムロンチャイタム社長が4月11日付で辞任すると発表した。2019年度の決算で120億バーツ(約400億円)の赤字を計上したばかりだが、新型コロナウイルスに見舞われた2020年度はさらなる惨状が待っていることになる。
 
 以下、航空業界の収益を左右する空港の旅客動向(到着状況)を概観してみたい。
 

タイ:主要6空港の旅客数、2月は28%減

 空港運営のタイ空港公社(AOT)は、同社が管理運営する国内主要6空港の2020年2月の旅客数が前年同月比27.7%減の898万2,333人だったと発表した。マイナスは2ヵ月連続。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国際線が36.7%減の470万7,489人に落ち込み、国内線も14.2%減の427万4,844人と振るわなかった。
 
 空港別では、◆バンコクのスワンナプーム空港=390万1,223人(30.9%減)◆同ドンムアン空港=265万4,334人(21.7%減)◆南部のプーケット空港=121万9,430人(30.8%減)◆同ハジャイ空港=27万2,382人(12.7%減)◆北部のチェンマイ空港=71万8,750人(31.3%減)◆同チェンライ空港=21万6,214人(17.6%減)―だった。6空港の1〜2月の旅客数は前年同期比13.6%減の2,226万9,682人だった。
 
 なお、3月1~22日にスワンナプーム空港に到着した国際線旅客は33万984人と、前年同期比で73.3%減少。航空各社の減便や運休が相次いでいるうえ、同22日から入国規制が強化されたことで、今後も低迷が続くとみられている。
 
 (亜州ビジネスASEAN:3月24日付ニュース)
 

スワンナプーム空港の利用状況

 タイを訪れる旅行客は、ほとんどが首都バンコクのスワンナプーム空港を利用しているため、同空港の旅客減がそのまま航空・観光業界の苦境を表していると言ってよい。次の図は昨年と今年の旅客(到着)数を比較したもので、今年の2~3月にかけて大きく減少している様子が分かる。
 

 
 こうした足元の動向を見る限り、今年は年次ベースでも旅客数の減少が避けられない状況だ。過去数年にわたり、タイの空港は順調に旅客数を伸ばし続けていただけに、今年のマイナス成長は予期せぬ「異常事態」といえる。
 

亜州ビジネスASEAN 「タイ航空業界リポート」より
出典:タイ航空公社

 
 特にタイの航空会社は、これまで旅客数が伸びていたにもかかわらず、LCCの参入による競争激化で業績が大きく低迷していたため、今年の旅客減が致命傷につながる恐れもあろう。
 

存亡の危機にあるタイ国際航空

 実際、しばらくは出口の見えない状況だ。前出のタイ国際航空は3月24日、全便の運航を当面休止すると発表。タイ政府のほか主要各国が渡航を制限している点を踏まえ、やむを得ず全面運休に踏み切らざるを得ない実情を明らかにした。新型コロナが蔓延する以前から、同社は経営難に陥っていただけに、まさに存亡の危機にあると言ってよい。もちろん、他の航空会社も他人事ではない。
 
 こうした中で本稿執筆中の3月28日には、現地メディアが「タイの航空7社が政府に160億バーツ(約560億円)の支援を要請した」と報じた。政府が何らかの支援を行わざるを得ないのは確かだが、この規模の融資で乗り切ることができるのか、また、大規模な業界再編に着手することになるのか―。いずれにせよ、風雲急を告げる状況であることは間違いない。

(亜州リサーチ アセアン編集部)

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPタイ航空業界:新型コロナウイルスで経営危機、政府支援が不可避か