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異分野こそアイディアの宝庫!

2020年3月11日

《視点ズーミング思考その1》~弱点を長所に変える~

視点ズーミング思考とは?

 アイディア発想に必要な思考ルールの一つが『視点ズーミング思考』です。カメラのズームレンズのように、ワイドに俯瞰したり、アップで細かく精査したりと視点を変える思考ルールです。今回のテーマは、視点ズーミングの1回目。【弱点を長所に変える!】です。視点を変えることで、弱点や欠点が真逆の効果を生み出した事例をご紹介します。ソニー時代の『カメレオン・アイ』というプロジェクトの経験談です。
 

家庭用の卓上型カメラの誕生

 「360度全周囲が映せる」という画期的な監視カメラが登場した時のこと。今では、特別に目新しくはありませんが、2006年の発表当初は、製品とお客様のニーズがマッチする市場が、実はなかなか見つかりませんでした。
 
 「技術とコンセプトは面白いが、使い方がわからない」「監視カメラとしては解像度が低すぎて使い物にならない」これが、従来の業務用監視システムメーカーの顧客の声でした。そこで監視用に拘ることをやめて、全周囲の映像を必要とする消費者向けに変更したのです。
 
 カメラといえば、手に持つ、三脚に据え付ける、壁や天井に埋め込む、という使い方が従来の常識です。そこで、「360度の全周囲が見渡せる」という、際立った技術コンセプトを活かせるカメラの形を探り続けました。その結果、今までの当たり前を覆す『一見カメラに見えない卓上型カメラ』というデザイン形状を3Dプリンターで造ってみたのです。
 
 早速、展示会で一般ユーザーにカメラの模型を見せて様子を見ました。すると、全く異分野の大手通信キャリアから声がかかりました。「携帯電話で外出先から見られるシステムにしませんか?」14年前にはそんなシステムはまだ存在しませんでした。こうして、通信キャリアと協業した「モバイルモニタリング」という全く新しいコンセプトが誕生しました。
 

異分野コラボで見つかった新市場

 この新しい使い方でマーケティングを繰り返したところ、カメラに見えず、あまり鮮明に写らないことを望むニッチな新しい市場が見つかりました。それが【介護ビジネス】です。2006年は、丁度、介護保険法が改訂された年でした。多くの要介護者が病院などではなく、自宅で介護を受けるように変わることになりました。そうなると介護をする人は、美容院や買い物に出掛けるのもままならず、仮に外出しても、家に残してきた介護中の家族の事が気になって仕方ありません。
 
 そうした人が、出先からちょっと家族の様子を確認するのに便利なツールは携帯電話。この360度カメラにスピーカーとマイクを付けたことによって、携帯電話を通じて会話をすることも可能になりました。しかも、一般家庭で使われる場合、「撮影される人は監視されるのが嫌い」という不満があるため、鮮明に映らないことが却ってプラスになりました。「解像度不足」と指摘された業務用の監視カメラの弱点が、逆にお客様の最高のベネフィットと長所に変わったのです。
 
 更に、このシステムは、留守宅の様子が気になる人やペットの様子を見たい人など、当初の介護ビジネスというターゲットへの1点絞り込みから、多くの用途に発展していきました。そして今では、スマホやAIと組み合わせて、当たり前の機能に進化・発展しています。
 
 常識に囚われない、視点を変えた異分野こそ、アイディアの宝庫です!次回も、お楽しみに!
 


石川 耀弓 (いしかわ きくよ)
【元ソニーの女性エジソン】の異名を持つ、デジカメの電子シャッターの発明者!
全国発明表彰、特許特級表彰、アントレプレナー賞を受賞。現在は、中小企業のキラリと光る技術を発掘して世界に発信する【フィールウェア・プロジェクト】を主宰。脳の使い方をナビゲートするブレイン・アナリストとしても活躍。ペンネーム下川眞季で『”かわいい”のわざが世界を変える!~フィールウェアという発想~』(彩流社)を上梓。
 
株式会社 ダヴィンチ・ブレインズ 代表取締役社長
(NPO)大田ビジネス創造協議会 理事、技術士(経営工学)
会社URL http://www.davinci-brains.co.jp/
フィールウェア・プロジェクト http://feelware.jp/
著作本書評 http://eliesbook.co.jp/review/ Vol.4932

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