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2019年11月25日

タイ不動産業界:バブル抑止の規制強化で市況低迷中

第3回 ニュースとデータで読み解くアセアン業界動向

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 

 過去数年にわたり右肩上がりの上昇が続いていたタイの不動産市況は、2019年の春をピークに下落トレンドを示し始めた(下図)。きっかけとなったのは、タイ中央銀行が4月に実施した住宅ローン規制の強化。銀行の貸し倒れリスクや家計債務の増加リスクなどを軽減させる目的で、住宅購入時の頭金比率が引き上げられたのだ。バブルの芽を摘むうえで必要な措置といえなくもないが、不動産市場が急速にシュリンクした場合は景気を大きく後退させる危険性があるので、政府・中銀による今後の舵取りが注目されるところだ。以下、これまでの住宅販売動向と足元の当局動向を確認してみる。

 
住宅ローン規制の強化をきっかけとした不動産市況の低迷は、バンコク首都圏の在庫動向にもはっきりと表れている。
 
上半期の住宅在庫15万戸超、バンコク首都圏
 
 政府住宅銀行(GHB)傘下の不動産情報センター(REIC)の調査によると、2019年上半期のバンコク首都圏の住宅供給戸数は19万5763戸で、うち15万2149戸が在庫として売れ残った。在庫数は前年同期の13万1819戸から15%増加。在庫率は過去5年で最大の水準に高まっているという。…(中略)…在庫の増加は、4月に住宅ローン規制が強化されたことや、中国人と香港人をはじめとする外国人の購入が減少していることが要因。在庫物件の総額は28%増の6696億7000万バーツ(約2兆3960億円)だった。…(後略)…
(亜州ビジネスAEASN 10月21日付ニュース)
 
 同記事にあるように、住宅ローン規制強化のほか、外国人による購入の減少も在庫増加の要因として挙げられる。「大口顧客」だった中国人に関しては、◎米中通商摩擦の激化に伴う消費マインドの冷え込み、◎通貨バーツの上昇を受けた相対的な購買力の低下――などが買いを渋らせているようだ。
 こうしたタイ不動産市場の低迷は、日本にとっても他人事で済まされることではない。すでに多くの日本企業が現地に進出し、各種の開発プロジェクトに参画しているからだ。参考までに、今年の進出事例をいくつかピックアップしておく。
 
 こうしたなか、10月になって当局が部分的な緩和に動き出した。なし崩し的な市況悪化を防ぐため、期限付きながら住宅購入をサポートする政策を打ち出したのだ。
 
住宅購入に低利融資・減税、閣議で承認
 
 政府は22日の閣議で、住宅購入者への低利融資提供と減税を承認した。1戸300万バーツ(約1000万円)以下の物件購入を対象とし、12月24日までの2ヵ月間限定で導入。…(中略)…低利融資は政府住宅銀行(GHB)を通じて提供する。同日付各紙によると、金利は当初3年間を年2.5%とし、以降は徐々に引き上げる。通常の金利との差額を政府がGHBに支払い、政府の負担は総額11億8000万バーツに上る見通し。減税策の対象は、自宅を担保に融資を受けるモーゲージの利用者に限定。不動産譲渡税と登記手数料をそれぞれ物件価格の2%と1%から、0.01%ずつに引き下げる。…(後略)…
(亜州ビジネスAEASN 10月23日付ニュース)
 
 大幅なテコ入れ策ではないが、少なくとも急速な市況悪化を望まないという政府のスタンスが示された点は注目に値する。バブルを防ぎつつも景気に配慮する形で、バランスの取れた舵取りを期待したいものだ。

(亜州IRアセアン編集部)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.352(2019年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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