シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第4回(その2)トヨタ自動車社長 豊田章男

経営者コラム 社長の横顔

2019年9月25日

第4回(その2)トヨタ自動車社長 豊田章男

トヨタ自動車社長豊田章男の第2弾。高収益ながら時代に挑む言動に注目だ

 「自動車産業は100年に1度と言われる生きるか死ぬかの闘いがはじまっている。私は現場に一番近い自工会会長として、この節目をオールジャパンで乗り越えて行きたい」( 2018年6月、日本自動車工業会会長就任の挨拶)

 

 また、トヨタ社内に向けてはこう “喝” を入れる。

 

 「私が伝えたいのは危機感ではなく価値観だ。常に、もっと良いやり方があると考える会社には “大丈夫” と言う概念はない。私が言う企業風土改革とは、この価値観を取り戻し、慢心を取り除くことです」(2019年6月、株主総会の席上で)

 

 豊田のこうした言葉の真意は単なる危機感の高揚ではない。社長歴10年を数え、トヨタの経営の安定を如何に次世代へと繋げるか。豊田創業家3代目にしてトヨタ自動車歴代社長14代目としての自覚だ。故に堅牢な意識変革を全社員に求めている。

 

 豊田の人間形成は祖父の亡き豊田喜一郎への敬愛の念によるところが大きい。喜一郎はトヨタ自動車2代目社長だが、戦後間もない赤字経営と労使紛争の責任を取り辞任。自ら開発に先鞭をつけた純国産乗用車完成を見ずして病に倒れ、57歳の若さで逝去。それは章男誕生のわずか4年前の不幸だった。

 

 昨年8月。愛知県豊田市のトヨタ自動車事務本館ホールにて喜一郎の「米国自動車殿堂入り」を祝う100名程の少人数による記念式典が行われた。招かれた人々は、章男の主導で正面に飾られた亡き豊田喜一郎の顔写真パネルに献花した。私自身も現地で豊田の声を詰まらせながらの挨拶を聞いた時は改めて強い祖父愛を感じたものだった。

 

それは祖父への誓いだった。

 

 「 100年に1度の大変革が言われるなか、喜一郎の殿堂入りは “お前達も頑張れよ、お天道様は見てるぞ”と言われている気がしてなりません。新たなモビリティ(移動)社会の実現に向けて私自身が先頭に立ち、完成車誕生を見ずして逝った喜一郎や創業期の先人の無念の思いを背負いながら頑張っていきます」

 

 豊田章男のトップとしての試練は続くが、私個人としては満天の夜空に無数の星々が慕い集う「北辰(論語 為政篇)」のリーダー像を期待したい。

経済ジャーナリスト 
小宮 和行(こみや かずゆき)

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