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芸能、芸術インタビュー

2018年9月29日

【芸術家・表現者】Jae Oh (ジェイ・オー)さん

「有限な命をどう生きるか」 問いかけるポップアート ー俳優、画家として表現し続ける時代のアイコン

 人生の中でずっとやりたかったことを、その時がきたらやろうと自分に言い訳をして、後回しにしていませんか。
 
 今回取材したのは、人生のある地点で、有名俳優から画家への転身を決断したシンガポール人アーティストのジェイ・オーさん。彼は、有限の人生の中で無限の欲がある人間の固定観念や先入観をすくいとり、“人生への気づき”を喚起する絵を主に描きます。ポップアート様式でわかりやすいモチーフを用い、シュルレアリスム的な世界観が独特。アンディ・ウォーホルが旗手のポップアートが流行った当時のアメリカと、今のシンガポールに共通する時代背景は、大量消費社会です。シンガポールを代表する表現者として長年時代を見てきた彼が、この描き方と価値観に行き着いたことは現代のシンガポールを映し出しているように思えてなりません。アートの発信を通して日に日に影響力を増す彼の世界観には、日々忙しい私たち日本人ビジネスマン・ウーマンにとって、ふと人生を振り返りたくなるようなヒントが沢山ありました。

 

画家を志したきっかけを教えてください。

 若い頃から、絵を描くのが好きでした。20歳の頃から始めた俳優としての長年のキャリアがありましたが、7年前にあるきっかけにより「人生、手遅れになる前に、今やりたいことをやろう」と決心しました。「リタイヤしてから、やりたかったことをやろう」と考える人は、多いでしょう。でも、私は“今に生きる”ことの重要さを認識したので、今後の人生は絵を描いていこうと決心して、フルタイムの画家になりました。テレビドラマなど俳優の仕事をたまにすることもありますが、朝から晩まで絵を描く生活をしています。

 

Female Guard(女性の守衛)

 

メンターはいますか?

 いません。絵画は独学で学びました。絵を描き続けることにより、独自のスタイルが生まれてきました。

 

インスピレーションは?

 人との会話であったり、自然であったり、どこにでも見つけることができます。人の心の中など重いテーマを描いた後は、誰もが知っている人物画、あまり深く考えなくても描けるモチーフにすることが多いです。

 

俳優もされていたとのことですが、“表現する”というアウトプットの意味では、絵を描くことと共通すると思いますが、違いはありますか?

 大きく違います。俳優の仕事にはプロデューサーがおり、表現方法はその指示に従わないといけません。全てコントロールされています。でも、絵を描く時には、自分が全て決めることができます。自分がプロデューサーでコントロール権があり、自分の世界を完全に表現できる自由があります。そこが好きなところです。

 

主な作品のエピソードを教えてください。

 例えば『Human Greed (人間の欲) 』という作品では、人間の五大欲求を描きました。五大欲求とは、財欲・色欲・飲食欲・名誉欲・睡眠欲です。それらを追求した結果、最後には病気になって薬が必要になるかもしれないという皮肉も込められています。これらの欲求は無限で、一つ手に入るとまた次と際限がありません。人生は有限です。足るを知ることは、“感謝をして今に生きる” という幸せにつながります。
 
 また『FemaleGuard(女性の守衛)』という作品はこんなエピソードを基にしています。ある時北京にいたところ、大学教授の友人が「美しく産まれた女性は、大学に行かなくても良い。もう卒業したのと同じようなことだから」と私に言いました。それを受けてこの絵を製作し、その友人に見せたところ彼は大笑いをしたのです。人生はまさに、冗談の連続です。

 

全ての作品に通じる、コア・コンセプトはありますか?

 あります。“Life is a Joke(人生は冗談だ)”です。私は仏教徒で、瞑想をする習慣がありますが、ある時に瞑想をしていて閃いた言葉です。過去を振り返った時に、人生はなんたる冗談だ、と考えるに至りました。現代人は、日々の忙しさに追われて、木々から落ちる葉の美しさに気づく余裕もないでしょう。人生が思い通りにならず、カオス的な日々を経験することもあるでしょう。でも人生は全てが変化し続ける、本当は幻想だと笑い飛ばし、自ら生み出した固定観念による苦しみや茶番劇を見抜くことで、今に生きることができます。
 
 “Live in a present (今に生きる) ”ことの重要さを認識した時、そこには、今自分が置かれた状況への感謝があるだけです。今に生きるとはそういうことです。

 

そのような深い洞察をもったポップアートは、見たことがありません。第一印象としては色使いが暖かく、歓迎されているような気持ちになります。ただじっくり見るにつれて、単純ではなく意味にレイヤーがあることに気づきます。

 はい、珍しいスタイルだと思います。私の作品を通して見る人には“平和、喜び、幸せ”を感じて欲しいと思っています。私の作品はよく皮肉的だ、と言われることもあります(笑)。

 

ポップなのに皮肉的、と深みのあるコンセプトに行き着くには時間がかかりそうですよね。

 8時間から10時間の間、一人きりになって、コンセプトを熟考することから始めます。ジャズやクラシックなどの音楽をかけて気持ちを落ち着けることもあれば、音楽をかけないことも。そして作品はデッサンから始めて約1カ月をかけて、レイヤーを入れていきます。油絵なので乾くのに時間がかかりますが、レイヤーを入れるプロセスも楽しんでいます。

 

My Good Friend
Hunting

 

絵を描くとき、絵が売れたときどの瞬間が一番喜びを感じますか?

 もちろん、絵を描いている時です!

 

シンガポールでアーティストとして活動するにあたり、政府の援助がもっとあったら良いと考えることはありますか?

 はい。まず、家賃が高騰しているシンガポールで、ほとんどのアーティストはスタジオの家賃をまかなうことができません。アーティスト助成のために共同ファシリティでスタジオを安く他のアーティストとシェアできるようにする、などサポートがあると良いと思います。
 
 2点目は、ネットワーク。画家同士の横のつながりが生まれるネットワーク・プラットフォームが乏しいため孤独を感じやすいです。例えば北京には、Songzhuang Art Festival/Village(ソングザンアートフェスティバル・ヴィレッジ)という大規模な国際アートフェスティバルがあり、世界の著名なアーティストと交流し、画家を志す仲間同士で情熱を分かち合う機会があります。これはモチベーションのためにとても良い経験となります。

 

日本人コミュニティーとの関わりはありますか?

 はい。以前住んでいたコンドミニアムに大きな日本人コミュニティーがあり、日々子供同士を遊ばせるなどして、接していました。今でもとても親しく関わりを持っています。私にとって、子供たちと遊ぶことが一番のストレス解消、エネルギーチャージ方法です。日本人コミュニティーと接することで、日本文化はとても品が良く洗練されたものだと感じました。

 

今後の活動予定や、目標は?

 現在はシンガポールを中心に活動していますが、ぜひ、いつか日本で個展を開きたいです!

 

 


 
Jae Oh (ジェイ・オー)
Artist + Artiste(芸術家・表現者)

 

ポップアート・スタイルを通して、固定観念を覆すようなメッセージ性のある絵を創作し続けるシンガポール人アーティスト。また映画、テレビドラマなどに出演する俳優。シンガポールの大衆に影響力を持つ、アイコン的存在。彼の絵画作品は、オーチャードのヒルトンホテル内『Yang Gallery(ヤング・ギャラリー)』に常設展示。

 

Yang Gallery Singapore
住所: The Shopping Gallery Hilton, #01-11, 581 Orchard Road, Singapore 238883
HP:https://www.yanggallery.com.sg/

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.338(2018年10月1日発行)」に掲載されたものです。取材・文: 舞 スーリ

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