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座談会

2018年5月24日

東南アジアで“伝える”マーケティングとは ~多様なメディアをいかに活用するのか~

シンガポールで
テストマーケティング

AsiaX:シンガポールは国土も小さく、人口も多くはありません。その視点からはいかがですか。

 

有森:市場規模の問題もありますが、特異なマーケットの割にはシンガポール専用の商品はないような気がします。都市機能がコンパクトにまとまっていて商品情報を含め色々な情報が簡単に取れるし、ある意味ではマスメディアによる広告が必要ない社会のようにも感じますね。

 

乾:消費財のブランディングを担当しているなかで、購入の動機を調査したことがあります。その結果は、口コミが突出して多かった。日本人は、口コミというと友達や同僚など、横のつながりをイメージしますが、シンガポールの場合、家族だったり、国土が狭いため親戚が近くに住んでおり、頻繁に集まって、コミュニケーションをとっています。口コミが非常に強い購買の動機になりうるということがありますね。

 

吉地:シンガポールは日本的な広告がすごくしにくいと言えます。例えば、テレビコマーシャルを考えると、ここには最大でも560万人しかいない。しかも人種が違う。消費財でなければ一人で複数買わないわけですから、どれだけ売れるか決まってきます。人口規模として1都道府県レベルの規模になりますが、これまでは、観光客が様々なものを購入していくことで多くの売り上げがありました。ただ、周辺国が発展するにつれて、高級ブランドストアは各国主要都市に進出し始め、わざわざオーチャードに来て買わなければならないものは減ってきているので、観光客への期待が弱まってきている。シンガポールの内需をベースに広告を作ると考えた場合、最大でも560万人市場であるということが表面化してきています。シンガポールでのマーケティングを難しくしている背景に、こうしたシンガポールが直面している現象があると思います。

 

乾:当社でも、シンガポール単独マーケット向けのテレビ広告の開発もしています。シンガポール政府が大きな予算を持っていて、頻繁に広告キャンペーンをしているという部分は変わりませんが、テレビ広告を活用するブランドはどんどん少なくなってきているのが現状です。

 

緒方:シンガポールは、タイやインドネシアに比べて規制も緩いですし、港湾施設も整って物流もしっかりしている。しかも、国は狭く、人種は多様で、600万人近い国民に加え、主に近隣の東南アジア諸国から年間1,700万人も来ている。ですから、今後東南アジア各国でものを売る前に、この国の様々な人たちのなかでどの人種の方にどんな商品が受け入れられるのか、小さな投資でテストマーケティングできる場所だと捉えるといいと思います。

 

地方の自治体・メーカーの
東南アジア進出、課題は?

AsiaX:いま、日本の地方の自治体、メーカーはどうにか海外に出ようと取り組んでいます。その方法が正しいか否かは結果が全てでしょうが、感じているところをお聞かせください。

 

吉地:地方企業、地方自治体ともにマーケティングを上手にできていないと感じます。ターゲットがいて、どういうものが欲しい、どういうサービスなら喜びそうか、だからこういうものを作って提供しますという基本的なところをすっ飛ばして、いま自分たちの商品、サービスはこれですが売れるところありませんか、というアプローチです。しかも、世の中に出すときに、その商品がどういうバリューがあるかを説明できないような状態で、イベントに出展したりしている。これでは、よほど運が良くない限り難しいでしょう。

地方から東京や大阪のような大都市圏に出るにもやることは同じですので、こうした問題はそのプロセスを経験していない地方企業の課題ですね。

 

 

緒方:例えば伝統工芸品などを販売する場合に、シンガポールで売り子さんの人件費を安く抑えようとしたりすると、ミャンマー人とかフィリピン人になるわけです。彼らが和服を着て売ったりすると、ある意味で日本のモノがすべてフェイクに見えてしまいます。日本人で英語で接客ができる売り子さんをきちんと確保できるか否かは非常に重要ですね。加えてシンガポールドルの為替リスクを背負えるかどうかというところもあります。慣れていないところでしょうが、グローバル企業では当たり前の海外で商品を売っていくための基本的な要件に対応できていないケースが非常に多いと感じます。自社にリソースや経験がないのに関わらず、早急に海外進出をしなければならない、と後ろから押されているという場合の難しさですね。

 

有森:日本の場合、行政の持つ予算はとても大きく、ある部局と特定のエージェンシーとの関係が濃密すぎる構造的な問題もあるような気がします。また、プロジェクトの実効性よりも予算としてお金を付けて消化すれば良いと言う発想があるようで気になります。

 

緒方:海外で成功するためには、一つには現地に精通した良いパートナーを見つけること。あとはチーム構成を日本人だけとか、ローカルの人だけというのではなくて、混合チームで行っていくことが大事だと思います。当社はちなみにシンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、中国、日本からのメンバーでやっています。マーケティングの精度はかなり高いと思います。

 

吉地:いま、日本では都市一極集中型でノウハウ、仕組みが出来上がっていますが、これからは地方に分散していって、やるべきことをやれる人や会社の数を増やしていくことが大事だと思います。最近では、県知事や市長に実業から来られている方も多く、成果を出されているので、それと同じ流れが産業界にも必要なのだと思います。

 

AsiaX:目標を明確にして、経験不足を上手く補うことが大事になりますね。本日はありがとうございました。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです。(司会: 内藤 剛志 / 編集: 竹沢 総司)

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