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シンガポール星層解明

2018年2月28日

ドンキが“ディスラプト”するシンガポールの食品スーパー事情

ドンキの加工食品は言葉通り「驚安」
日本で買うより安い「フルグラ」

さて「日本の高品質な商品をシンガポール国内のどこよりも安く販売することをお約束いたします」との価格政策を掲げているドンキであるが、実際の商品価格を見ていきたい。

 

図3に日本産の食材でカレーを調理する際の買い物を各店舗で行った場合の総額を比較した。ドンキが52.1Sドルで最安となり、伊勢丹に比べると17Sドルも安くなっているが、明治屋とはほぼ同等の価格帯となっている。各食材の価格も、ドンキは伊勢丹に比べると総じて低価格で販売しているが、明治屋との間では、精肉と野菜において価格優位性は品目でばらつきがある(同じ日本産の品目の中でも、産地や銘柄によって品質は異なるとみるが、ここでは価格を比較する上でその差異は考慮しないものとする)。

 

figure3,4

 

しかし図4から明らかな通り、生鮮食品以外のカテゴリにおける商品の価格を比較すると、ドンキは他店舗の最高値に比べて平均40%も安く設定していることが分かる。また、カルビーの「フルグラ(800g)」は、当地でも人気の高まりを背景に大量陳列の上で販売されているが、衝撃的なのは9.8Sドル(約813円)という価格設定。日本ではドン・キホーテが最大の販売数量を誇るとも言われるその調達力を生かして、日本の一部小売店舗での価格をも下回る値付けには正に「驚き」を隠せない。

 

一方で、3店舗の間で価格差がほとんど無いカテゴリも存在する。例えばカレールウがその一例であり、3店舗で販売されている5つの同一商品の価格差は平均で0.6Sドルにとどまっている。この例においてはドンキの価格設定が高いのではなく、他の2店舗が価格を下げて消費者に購入を促した上で、カレーに入れる他の食材を同じ店舗で購入してもらうことで利幅を上げる算段ではないかと推考できる。

 

「五感を刺激する顧客体験」が真骨頂
既存スーパーはいかに対応していくのか

店舗の内外に漂う焼き芋の香ばしい匂いやイチゴの甘い香り、大量陳列された商品とその低価格を訴求する手書きのPOP。そして店舗を離れた後も頭の中で繰り返される「ドンドンドンキ」の店内BGM。価格優位性もさることながら、この「五感を刺激する顧客体験」こそがドンキの真骨頂であり、日本にいる感覚で買い物ができる在星日本人や、日本に旅行した気分で買い物が楽しめる現地人からの支持は今後も一層拡大していくとみる。ただしドンキにも課題が無いわけではない。最後に、目下散見される改善の余地を3点ほど述べて、本稿を締めくくりたい。

 

1点目は調達プロセスの改善による店頭欠品の防止。特売の目玉となるフルグラや青果売場に欠かせないイチゴなどは、輸入業者を通さずにドンキ自らが日本のメーカーや生産者と直取引の上で在庫管理がなされているであろうことから店頭在庫が切れることは通常はないが、例えば納豆やアイスの一部商品など、ディストリビューター(輸入卸業者)を介して入荷する商品では、欠品のために陳列棚が歯抜け状態になっていることがある。

 

2点目は現地消費者への啓蒙を通じた生鮮食品の販売拡大。在星日本人の買物かごの約半分は生鮮食品が占めているとみる一方で、市場の大部分を占める現地消費者の間ではお菓子などの加工食品やパック寿司などの即食商品の購入が圧倒的とみる。共働きが当たり前のシンガポールでは時短ニーズの潜在需要は高く、生鮮食品をカット野菜や半調理食品、ミールキットなどの簡便商品の形で展開していくことで商機を広げることは可能であると考える。

 

3点目は非食品カテゴリの見直しによる販売強化。活況を呈する食品フロアとは裏腹に、非食品が中心のフロアが特に平日は閑散としているのは否めない。低価格の食品をテコに集客を図り、粗利率が高い非食品の販売で利益を稼ぐ点がドンキのビジネスモデルの真髄とみるが、現状ではそれが成立しているとは言い難い。

 

今年の6月にはタンジョン・パガーの100 AMモールに2号店が開店し、その後も多店舗展開を視野にディベロッパーからのオファーが引く手あまたと推測されるドンキ。顕在化しつつある課題に対処しながらどこまで市場を拡大していくのか、また明治屋と伊勢丹をはじめとして、日本産の食材を販売する既存の食品スーパーは“ディスラプター(創造的破壊者)”の出現にいかに対応していくのか、各社の動向から今後も目が離せない。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.331(2018年3月1日発行)」に掲載されたものです。

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