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シンガポール星層解明

2017年6月23日

事業改革で問われるシンガポール航空の底力

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シンガポール航空、第4四半期は5年ぶり赤字 通年で55%減益(2017年5月19日)
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今年で創立70周年を迎えたシンガポール航空が岐路に立っている。東南アジア域内の格安航空会社の攻勢に加えて、路線の新設や増便を進める中国本土や中東の航空会社との価格競争などを背景に、2017年1~3月期決算で5年ぶりの最終赤字に陥った。今後も競争環境の激化が予想される中、社内ではCEOの直下に「事業改革推進室」を設置し、抜本的な事業の立て直しを図っている。本稿では、シンガポール航空を取り巻く事業環境を俯瞰しながら、国の発展のシンボルとして国民から愛される航空会社の今後を占っていきたい。

 

中国本土や中東の競合に価格優位性
香港の航空大手に続くリストラの可能性

シンガポール航空(以下、SIA)が5月18日に発表した2017年1~3月期決算は、最終損益が1億3,830万Sドル(約109億円)の赤字となった。価格競争や燃料コストの上昇に加えて、欧州委員会が貨物運賃のカルテルに科した制裁金に対し、1億3,200万Sドルの損失引当金を計上したことも赤字の要因ではあるが、四半期で5年ぶりの赤字の計上に対して、SIAの株価は翌19日に2008年の金融危機以降で最大となる7%の下げ幅を記録した。

 

SIAの現状は、破竹の勢いで成長する競合他社の存在抜きには語れない。図1でSIAと他社の運賃を比較した。SIAが拠点にするチャンギ空港は、乗り継ぎ客が全体の約3割を占めると言われる東南アジア最大のハブ空港であり、SIAも周辺各国からの集客に努めている。しかしながら、需要が高いシドニーからロンドン、およびジャカルタからアムステルダム路線を例にして運賃を比較すると、実際には中国本土や中東の航空会社に価格優位性があることが分かる。またSIAは、路線次第では格安航空会社(以下、LCC)とも競合しているが、シンガポールからクアラルンプールの「ドル箱」路線の混雑する時間帯を例にとると、1時間弱のフライトにも関わらず運賃がLCCの2倍以上にもおよぶSIAは、使い勝手がよいとは言えない。

 

SIAと同様に、ハブ空港と高級サービスをテコにして成長を続けてきた香港のキャセイパシフィック航空も、類似の競争環境の下で苦境に陥っており、3月に発表した2016年12月期決算は、最終損失が5億7,500万香港ドル(約85億円)と8年ぶりの赤字を記録している。これを受けてキャセイは、過去20年で最大の構造改革の一環として、本社人件費の30%の削減目標を打ち出しており、管理職全体の25%を含む本社スタッフの600人を削減する計画を5月に発表している。SIAにおいても人員削減が避けられないとみる向きは少なくない。6月上旬には実際にCEO自らがリストラを示唆する旨の発言をしている。

 

平均機齢はエミレーツ航空に劣後
相対的に色あせるSIAの機内サービス

競合他社との価格競争がSIAの収益を圧迫している状況は上述した通りであるが、サービスレベルにおいても立て直しが必要と考える。航空会社の国際的な格付け機関である英スカイトラックス社が発表している過去10年のランキング上位3社を比較してみると、SIAは2007年と2008年に最優秀の座を獲得して以降、毎年2位または3位に甘んじており、近年では中東の航空会社がトップの座を獲得するケースが増えている。

 

かつてSIAは、世界で最も新しい機材を揃えており、現在も保有する106機の平均機齢は7年8ヵ月(2017年4月時点)と、平均機齢が10年を超える欧米の航空会社に比べて新しい機体を運航しているが、最近では巨額の投資を続ける中東の航空会社の後塵を拝している。例えばエミレーツ航空は、2016年には業界平均の25年を大きく下回る15年の平均機齢で26機を退役させると同時に、エアバスA380型機20機など計36機の新機材を導入しており、保有する200機超の平均機齢は6年を下回っている(2015年12月時点予測)。また域内のLCC各社も積極的に新機材を導入しており、マレーシアのエアアジアやマリンドエアでは真新しい機体に遭遇することも珍しくない。

 

またSIAが1997年に導入した全ての座席クラスで映画や音楽をオンデマンドで提供する機内エンターテインメントのシステム「クリスワールド」や、1998年から提供する著名なシェフが監修した機内食メニューなどは、競合他社に先駆けて導入した当初は差別化要素として訴求力を持っていたとみる。しかしながら、他社も類似のサービスを標準的に提供するようになった昨今においては、SIAの提供価値が相対的に弱まっている感は否めない。

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