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2010年6月21日

アジアの水問題に果敢に取り組むリーダーの育成

水政策研究所所長 シータラム・カリダイクリチさん

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今年で3回目を迎えるシンガポール国際水週間(SIWW:Singapore International Water Week)。期間中は世界各国・地域のリーダーや、研究者、水関連企業トップなどが集まる会議のほか、水関連技術の展示、日本、アメリカ、オーストラリア、インド、中国など世界各国の水への取り組みやビジネスチャンスなどについて話し合われるビジネスフォーラム、さらに同時開催プログラムなども多数あり、「水」に携わるあらゆる人にとってグローバルな情報交換や商談の場として年々規模を拡大しつつある。

リー・クアンユー公共政策大学院の水政策研究所(IWP:Institute of Water Policy)で2008年の設立当初から所長を務めるシータラム氏にインタビュー。IWPの役割やシンガポールの水政策、SIWWでの同研究所の取り組みなどについて語っていただいた。

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水問題における水政策研究所(以下IWP)の役割とは。
シータラム
IWPの役割のひとつは、公共政策におけるアジアおよび世界のリーダーを育てることです。水は重要な課題であり、各国・地域のリーダーにそれを認識してもらう必要があります。そのためにIWPが問題点を取り上げて提議することもIWPの役割であり、ユニークな面でもあります。私たちは、現在ある水問題は解決可能だと信じています。更に言うと、資金面、技術面、実践面など様々な面から見て、実際に使える解決策も既にあります。水問題で不足しているのは良いリーダーシップ、つまり、ビジョン持って果敢に水問題に取り組める人材です。水問題でリーダーシップを取れる人材を育てることはIWPの使命です。

 

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IWPの活動を少し詳しく教えてください。
シータラム
IWPの活動は4つに分類されます。まず1つ目が「研究」です。特に都市部の水統治に重点を置いています。アジアで急速に都市化が進む中、都市部に集中する何億という人々に水を供給することは喫緊の課題です。PUB(シンガポール公共事業庁)ともいくつかの共同研究を進めています。私たちの研究成果を各国・地域のリーダーや政策決定者に知ってもらい、彼らが政策判断を行う上で手助けになることを目指しています。2つ目は「リーダーシップ開発および教育」です。毎年水問題に関するリーダーシッププログラムを実施しており、今年は6月に2週間のプログラムを実施しています。また、昨年から開始したグローバル水政策ダイアローグを今年も開催します。6月30日午後には、水についてのワールド・ディベートを行う予定で、BBCワールドによって全世界に生中継される予定です。3つ目は「コンサルティング」で、様々な国に水政策についてアドバイスしています。4つ目は、他のシンクタンクや研究センターなどとの積極的な「パートナーシップ」です。アジア太平洋地域という大きなくくりでの水ネットワークを形成することが目的で、日本の森元首相が会長を務める「アジア・太平洋水フォーラム」もIWPはサポートしています。また、東京大学公共政策大学院とも密接に連携しています。同大学院とリー・クアンユー公共政策大学院とのダブル・ディグリー制が始まりますが、私が東大の客員教授を務めていることもあり、まず水分野で始めようという話になっています。 
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シンガポールおよびアジア全域において、水に関する一番の懸念は何ですか。
シータラム
シンガポールの水問題についてはかなり解決されています。しかし、アジアの他の多くの国々にとってはいまだに大きな課題です。上下水道の整備が不十分な国や地域がたくさんあります。下水道の不備は、将来に問題を先送りしているようなものです。環境を汚染し続けることで、先々もっと危険な状態になる恐れがあります。一方シンガポールは持続可能な良い政策を取っていて、将来への備えもしっかりできています。水道に対する適切な料金設定を行い、バラッジの整備などによる貯水や水のリサイクルにも取り組んでいる。シンガポールの水問題に関する未来は明るいと言えるでしょう。あとは、現在ある知識や政策などを長期的にどう引き継いで行くかが課題でしょう。

 

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SIWWも今年で3回目の開催となりますが、これまでの成果は何でしょうか。
シータラム
SIWWはシンガポール政府全体が強力に主導しています。SIWWを成功させるためにIWPが果たすべき重要な役割が、知的コンテンツの提供です。具体的には、SIWWの中で出された主要なメッセージをまとめた「ブルーペーパー」、提案された水問題の解決策をまとめた「ソリューション」といった冊子などです。学術的なコンテンツとビジネス開発とのバランスを取ろうとしているわけですが、SIWWはこの点においても成功していると思います。他の会議や学会とは異なるユニークな部分ですね。

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私はアジア開発銀行の代理人も務めていますが、私たちは、水分野にはこの先10年でおよそ100兆円規模の投資が必要になると見積もっています。巨額な投資を良い投資にするには、単に資金を集めるだけでなく良い政策が必要です。良い政策が良いプログラムの策定につながり、良いプロジェクトを生み出します。順序が逆ではいけません。多くの人はプロジェクトをすぐにやりたがるものですが、ソリューションはまず良い政策から始める必要があります。SIWWはその方向に導くきっかけになっていると思います。水は経済的あるいは社会的な問題、つまり貧困や健康問題、教育問題などを解決する鍵です。そこで、日本やシンガポールが経験してきたこと、つまり、数十年前にまだそれほど豊かではない時期に水問題に直面し、その後年月を経て解決したことが、強力なメッセージとなります。「水問題を早期に解決すれば、社会や経済はより良くなる」と。

 

 

AsiaX
今回のSIWWでのIWPの活動予定は。
シータラム
6月21日から27日までは、日本も含め様々な国から講師を招いて水に関する大規模なリーダーシッププログラムを開催します。24日には『Developing Living Cities』という本を出版します。都市管理とその中で水がどれだけ重要かを示したものです。28日にはアジア太平洋水大臣会合があり、森元首相も参加します。29~30日は水リーダーサミット、30日には先にお話したBBCの生中継が入るディベート、他にセミナーも多数開催予定です。詳細は下記サイトにあります。http://www.spp.nus.edu.sg/iwp

 

AsiaX
世界の水問題において、日本の企業や組織にどんな役割を期待しますか。
シータラム
思いつくだけでも3つの分野がありますね。1つは研究。日本には水関連の優れた知識や技術の蓄積が膨大にあります。知識の多くは日本語で記録されているため現段階では日本国内でしか活用されていないかもしれませんが、日本語から英語への翻訳などで日本国外でも活用可能です。そのお手伝いを私もしています。2つ目は日本が大きな役割を果たすことが期待でき、しかもすぐに可能なことですが、アジア・太平洋水フォーラムのような水分野における日本からのリーダーシップです。G8のメンバーでもある日本がアジア全体に対してリーダーシップを発揮すれば、アジアにとっても有益です。3つ目は日本の経済発展に繋げることです。日本の技術や知識を活用してアジアの水問題を解決するには、日本から輸出する必要があります。中国やインド、東南アジアなどで地元のパートナーと提携できれば、将来性は高いでしょう。この分野には韓国も積極的に取り組んでいます。この3つの大きな分野と水政策でファシリテーター的な役割を果たして、日本の水に関する専門的な力をアジアで広めてもらえることを期待しています。既に日本の関係者とも話していますし、今年の水エキスポにも日本企業や自治体が出展しますが、より可能性が広がると思います。それは、日本に富をもたらすだけでなく、アジアの発展にも繋がるでしょう。

シータラム・カリダイクリチSeetharam Kallidaikurichi

インド出身。東京大学で博士号取得後、日本の総合建設コンサルティング会社に勤務。国際協力機構(JICA)や国際協力銀行(JBIC)のプロジェクトなどにも従事。日本に10年在住した後、アジア開発銀行に移籍しフィリピンに12年在住。2008年に来星し、水政策研究所初代所長に就任。開発協力やインフラ、経済統合計画など公共政策分野で20年以上のキャリアを持ち、水・衛生の専門家としても知られる。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.169(2010年06月21日発行)」に掲載されたものです。
文=石橋雪江

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