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ビジネスインタビュー

2010年2月1日

日本発クロネコヤマトの「宅急便」を世界ブランド「TA-Q-BIN」へ

YAMATO TRANSPORT Pte Ltd マネージングダイレクター

 

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ヤマトホールディングスは、今年(2010年)1月より、日本国外で初めてとなる宅急便のサービスをシンガポールと上海で開始した。日本でおなじみのクロネコヤマトの宅急便、その便利なサービスをシンガポール国内で最大限活かし、その名も「TA-Q-BIN」として利用が可能になった。「シンガポールに宅急便のサービスとシステムが根付くことで、当地のライフスタイルそのものを変えていくことが目標です。」と、シンガポールヤマト運輸株式会社の戸田直樹氏はその抱負を語った。

シンガポールの宅急便、「TA-Q-BIN」ができること

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シンガポールでは、これまで、シンガポールポストによる郵便、バイク便といったクーリエサービスなどが一般的で、日本で日常となっている宅配のシステムは存在していなかった。つまり、自宅からの引き取りから届け先への配達まで時間帯を細かく指定でき、不在時などの再配送の無料対応、荷物の受け取り時に支払う代金引き換えサービス、要冷蔵の食料品の配送(クール宅急便)など、個々のスケジュールやニーズに合った宅配サービスを提供する「TA-Q-BIN」は、当地では画期的な新サービスとなる。

1976年、日本でヤマト運輸が宅急便のサービスを開始した初日はわずか11個だった取り扱い荷物が、2008年には年間12億個の荷物を運び、郵便物の取り扱い数を大きくしのぐほどに成長、我々のライフスタイルを変えるに至った。シンガポールでも同じ青写真を描けるかどうか、本格的な世界進出への足がかりとするべく、戸田氏のシンガポールでの挑戦は始まったばかりだ。

海外への宅急便の進出は、経営計画のひとつであり、数年前から市場調査を開始。昨年7月にシンガポール国内の宅配サービスを事業化するとの経営判断が下され、戸田氏とそのチームの努力により、わずか半年でビジネスとして始動した。

現在、5つの地域拠点からシンガポール全島(ジュロン島、セントーサ島も含む)を網羅する配達ネットワークを持ち、セールスドライバー32人が配達車両26台を使って、365日無休で荷物を運ぶ。

今後は、地域拠点を増やし、荷物の受け取り窓口なども年々倍増していく計画だ。

「シンガポールのお客様に合ったサービス、この気候に対応したより良い冷蔵技術を装備した配達車の整備、ドライバーが作業しやすい配達車の開発なども同時に進めていきます。」と、戸田氏は意欲的に語る。

ネットワーク産業としての宅急便「TA-Q-BIN」がもたらす可能性

「国内を網羅するネットワークが出来上がると、それが需要を創造し、コストが下がる。また拠点やドライバーが増えると地域でのサービスの密度が上がり、荷物の取扱量も増えて利益を生み、さらなる設備投資ができるのです。これを弊社では『良い循環』と呼びます」と戸田氏は説明する。

「我々の事業はネットワーク産業なのです。」と、前置きした上で、まずは先行投資をしながらネットワークを密にし、宅配サービスを知ってもらうことで、2年後には、皆が知っているブラックキャット、「TA-Q-BIN」になることを目指す。

目下、「TA-Q-BIN」のサービスを体験してもらうために、「TA-Q-BINメンバーシップ」に事前登録した方へギフトを無料で届けたり、日本の要冷蔵のお菓子を「Cool TA-Q-BIN」で届けるキャンペーンなども展開中だ。

今後は、ガソリンスタンドやコンビニなどに集配網を広げたり、この土地ならではの顧客のニーズに合ったサービスを作り出し提供していくことが課題になる。「我々の宅配サービスが浸透することで、シンガポールでまだ浸透しきれていないネット通販や、ebay(イーベイ)などのネットオークションなどが一助になるかもしれません。」という。すでにこれからネットビジネスを立ち上げようとしている企業から、代金引き換えシステムに関する問い合わせもあるという。

また、シンガポールという国の規模とインフラの状況から、シンガポールヤマト運輸では、合弁企業などの形でパートナーと組むことなく、独資の道を選んだ。そうすることで、今後進出予定のあるクアラルンプール、バンコク、ジャカルタ、香港などアジア各都市へ展開する際、ビジネスモデルのタイムリーな策定が可能になる。また、荷物の配達をSMSで事前に連絡するサービスの試みなど日本でもまだ導入されていないサービスの開発にも積極的に取り組んでいけるといったメリットが活かせるというわけだ。

「ヤマトは我なり」心意気の共有

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ヤマト運輸では、集荷や配達を担当する運転手のことをセールスドライバーと呼ぶ。担当地域では、自らヤマトを代表して責任を持ってサービスを提供し、売り上げ、安全についても自ら積極的に関わるという役割が期待されているからだ。

「発想としては、荷物を持って行くのが仕事という認識を超えて、我々は、荷物をお届けするのが仕事だということです。ですから、再配送のアレンジも配達が完了するまで何度でも行う。直接お客さまと相対してサービスを提供するセールスドライバーこそ、我々のビジネスの80~90%を決めると言っても過言ではありません。他との差別化を担う重要な部分なのです。」という言葉の中に、サービスにこだわる戸田氏の真摯な思いが伝わってくる。

一般的にドライバーという職種におけるサービス意識が低い当地で、シンガポール人にセールスドライバーへの期待を伝えることは容易ではないはずだが、「所長やグループリーダーは、日本での現場研修でそのサービスを体感してシンガポールに持ち帰っていますし、セールスドライバーの採用条件にはサービス業または営業職の経験を加えました。

最近では、再配送のために何度も足を運ぶと、不在だったことを謝られたり、笑顔できちんと届ける姿勢に礼を言われたりと、彼ら自身が顧客との関係性を通してどこか心をくすぐられる経験、つまりシンガポールになかった価値観を見いだし徐々にモチベーションが上がっているようです。」と、氏は手応えを感じている。

短期間でここまで人とインフラのシステムを作り上げてきた戸田氏のマネジメントの秘訣を聞くと、「幸い、スタッフに恵まれました。」と微笑みながら、「日常的にマインド、人の気持ちを大事にし、なるべく社員に声をかけるようにしています。現段階は、日本流のやり方をベースにオペレーションを進めていますが、将来は現地のリーダーが考えて動ける環境を作りたいですね。そのためにも、チームで協力し合い、カバーし合いながら目標を達成する一体感が大切。」と語った。

高校、大学時代にラグビー部に在籍していたという戸田氏らしく、チームワークを重んじるアプローチである。一方で、シンガポールは日本と違い、社員の転職率が高いことに最初は戸惑ったという。その風潮も、「ヤマト運輸のサービスや社員のスキルが評判になり、この職場で働くことがステータスとなるような職場づくりを目指そうと考えています。」と、前向きな発想で乗り切って行く。

宅急便が、アジア各国にそして世界へその事業を拡大してゆく中で、「TA-Q-BIN」が国際的な代名詞となり、新たな日本のサービスシステムの象徴となる日は、そう遠くないかもしれない。

YAMATO TRANSPORT (S) PTE LTD
55 Ubi Avenue 3, #02-01 Singapore 408864
TEL:ホットライン 1-800-2255-888/6595-2050

55 Ubi Avenue 3 Singapore 408864

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.161(2010年02月01日発行)」に掲載されたものです。
文=桑島千春

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