シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPCPF、そのメリットと今後の課題は?

星・見聞録

2016年7月18日

CPF、そのメリットと今後の課題は?

3.制度改革の動きは?

こうした中、シンガポール政府は、老後の生活資金の確保などに向けてさまざまな対策を講じている。2014年には、シンガポールの発展を支えてきたパイオニア世代(シンガポールがマレーシアから独立した1965年時点で16歳以上だった人)の高齢者に対して、外来診療費の半額を補助するなどの政策を発表した。また2015年度の予算案では、高年齢労働者の老後の備えを増やす措置として、51歳以上の労働者のCPF積み立て率を引き上げている。

 

このほか昨年11月には、これまで任意加入だったメディシールド(CPF制度の一部で、難病など高額医療費を補助するための医療保険制度)が、メディシールド・ライフという新しい制度になり、全国民とPR保有者が強制加入になった。中低所得者やパイオニア世代に対しては、政府による保険料の補助があり、セーフティーネットの整備が進んでいる。
CPFなどの改善について、最近の動きはどうなっているのだろうか。またシンガポールの識者は、日本の高齢化社会や年金制度をどう見ているのか。資産運用のアドバイザリーを手掛けるシングキャピタルのCEOで、CPFに詳しいアルフレッド・チア氏に話を伺った。

 

――現在のCPF制度について、どのように評価されていますか。
CPFは老後の資金だけでなく、医療保険や住宅ローンもカバーしているうえ、金利が高く免税効果もあります。基本的に、人生設計を包括的にカバーできるよく出来た制度と言えると思います。
シンガポール社会のセーフティーネットを強化するため、CPF庁は人々が制度に対して何を求めているのか、把握しながら、常に改善する努力をしています。

 

――CPFの改革に向けた最近の動きはどうなっているのでしょうか。
CPFには高い金利がつきますが、平均寿命の伸びなどに伴い、積立不足が懸念されています。シンガポール政府はCPFへの積み立て分を活用した資産運用のリターンをさらに高めるための取り組みを行っています。残念なことに、統計を見る限りでは、CPF加入者によるCPFISのリターンはあまり良くありません(リサーチ会社のリッパーによると、2016年1~3月のリターンは全体で3.26%)。政府は現在、CPFISを改善するためのスタディグループを組織し、CPF加入者がより良い条件でCPFISを利用できるよう、方策について議論しています。退職後に生活する期間は伸び、物価も上昇しています。65歳で定年退職し、その後の生活期間が20年になると仮定しましょう。インフレ率が平均2%で推移すると、退職後の生活費として毎月3,000Sドル(約22万4,000円)を見込んでいたのが、20年で4,474Sドル(約33万4,000円)にまで増える計算になります。4%の利率で毎月4,474Sドルのお金を得るには、99万4,894Sドル(約7,428万円)もの原資が必要になるのです。

 

――シンガポール、日本ともに少子高齢化が進んでいます。両国の状況について、どのようにご覧になっていますか。
シンガポールでは、継続して移民を受け入れているため人口自体は増え続けており、出生率の低さを補っています。人口問題については、日本のほうが深刻な状況といえると思います。少子高齢化に伴い、日本は社会保障に対する支出が増え、多額の公的債務を抱えています。年金を含めた日本の社会保障制度にはもっと抜本的な見直しが必要だと思います。既得権に切り込むような改革を断行するのが難しいのだとしたら、日本人のひとりひとりがもっと資産運用について学び、将来に備えることはますます重要になるでしょう。特に日本の場合、銀行の金利も低く、資産を運用せずただ持っているだけでは、お金を失っているのと同じなのではないでしょうか。投資について正しく学ぶことは、老後の人生設計を考えるうえでも重要なことだと思います。

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