シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPCPF、そのメリットと今後の課題は?

星・見聞録

2016年7月18日

CPF、そのメリットと今後の課題は?

2.シンガポール国民の不満とは?CPFをめぐる問題

高い金利や免税効果があるなど、一見魅力的にも見えるシンガポールのCPF制度だが、2014年にはホンリム公園で抗議デモが行わるなど、制度に不満を持つ人たちも多い。数百人が参加したこのデモではCPFの運用のあり方について、利子率が低いなどとして、政府に透明性の向上を求める演説が行われた。こうしたデモが起きた背景について、阿部氏は次のような見方を示す。

 

「こうした不満等の背景には、高齢化が進む中でCPFの積立水準が十分ではないとの認識が広がったことが挙げられると思います。当初CPFは、ミニマム・サムから約20年間、老後の生活費を支給するという制度設計でしたが、シンガポールは世界でも有数の長寿国となり、高齢化のリスクに対応しにくくなりました。政府は高齢化リスクに対処するため、2009年に特別口座にCPF LIFEという終身年金を導入していますが、積立金の運用や平均余命の伸びによっては給付額が引き下げられる可能性があります」
世界保健機関(WHO)によると、シンガポール人の平均寿命は2015年時点で83歳。日本の84歳と同程度で、ASEAN諸国の中では最も高い。老後の生活が長くなれば、その分生活費用も増えるため、CPFの積み立てだけでは暮らしていけない人が増えることも予想される。

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実際、DBSが今年2月に発表した、シンガポール人とPR保有者の老後の生活に関する意識調査を見ても、2015年11月時点で老後の生活について十分な蓄えがあると答えた割合は、調査対象の約1,000人のうち36%にとどまっている。また回答者のうち30%は、定年退職後に生活水準を落とす必要があるだろうと答えた。
阿部氏はさらにこう話す。「CPFそのものに問題があるというよりも、予想以上に速い高齢化の進展と経済発展がCPFに影響しているといえます。また経済発展に伴い、HDBフラットの購入価格も上昇しています。HDBフラットを購入するためにCPFに積み立てた分を引き出すことができますが、購入価格が上昇したことで引き出す金額が大きくなり、年金としての機能に影響を及ぼしてきています」。

 

CPFの制度設計のあり方について、阿部氏はこう指摘する。「今後は、高齢化および経済発展とともに、移民政策を踏まえてシンガポールの適正人口を考慮しながら、CPFを含めた各種政策を構築、あるいは見直すことが重要なのではないでしょうか。CPFの非対象層である、低所得者層や失業者・貧困対策の充実も、今後の重要な政策課題となるでしょう」政府による市場への介入を最小限にとどめ、市場原理に基づく競争を通じて経済成長を促進させようとする「小さな政府」を志向するシンガポールだが、経済のレベルを保ちつつも、国民が納得できる社会福祉制度を構築していくことが求められている。

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