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シンガポール星層解明

2016年7月5日

パナマ文書公開で国際的に課税強化 シンガポールの日本人富裕層への影響は? 解説:AGSシンガポール 税理士有資格者 鈴木寛氏

シンガポール移住を取り巻く環境

次に、シンガポールへの移住を取り巻く環境をみていこう。生活環境の整ったシンガポールは日本人にとって住みやすく、外務省による2015年の在留邦人数のデータでは国別で11位に位置し、特に2013~2014年は前年比10%を超える上昇だった。

 

しかし、近年のシンガポールの政策には、移住にネガティブな面が目立つ。まず、外国人ビザの規制がある。2010年の経済戦略委員会の新成長戦略に基づき、外国人労働者へのビザの規制を厳しくしており、この状況はしばらく続くとみられている。また永住権について、以前はシンガポール金融管理庁が定める金融商品に一定額以上投資することで永住権を取得できるFIS(ファイナンシャル・インベスター・スキーム)という制度があったが、2012年4月に廃止された。

 

加えて、2016年度の税制改正では、シンガポール国内産業の育成がテーマのひとつに掲げられている。また、外国人労働者の雇用抑制に伴い、ローカルの雇用増加に結びつかない海外からの投資申請が却下される事例もある。無制限に外資誘致を受け入れていた時代からの政策転換は、富裕層の取り込みにも影響するだろう。

 

さらに、シンガポールを含むASEAN各国の経済成長が3年程前に比べ鈍化する中、日本では2020年の東京オリンピックに向け不動産価格が上昇するなど、日本の国内市場が注目されていることも、海外移住がネガティブに捉えられる要素と考えられる。

 

ペーパーカンパニーとタックスヘイブン対策税制

このような環境の中、海外に移住しなくても、パナマ文書のように低税率国に100%出資のペーパーカンパニーを設立して節税ができないのかという疑問が湧くが、その場合でも日本の税金が課税されることになる。これは外国子会社合算税制、いわゆる「タックスヘイブン(Tax Haven、租税回避)対策税制」というもので、例えば個人が法人税率20%未満である軽課税国に100%出資のペーパーカンパニーを持っている場合、その法人で発生した所得は個人の所得とみなされ、日本で課税されてしまう。シンガポールの法人税率は17%で、タックスヘイブン対策税制の対象国なので注意しなければならない(実際は、株主構成など詳細な検討が必要である)。
では、「財産を直接隠してしまえば……」という悪い考えが浮かぶかもしれない。しかし日本では、マイナンバー制度を始め、国外財産調書(2012年税制改正)や財産債務明細調書(2015年税制改正)という、個人確定申告書に海外資産の開示を求める制度が設けられている。さらに日本の国税当局は、100万円超の国外送金情報を把握しているうえ、シンガポールに専門官を赴任させ現地での情報収集を行っている。シンガポールでの租税回避行為には、特に目を光らせていると考えてもよいだろう。

 

シンガポールは、タックスヘイブン国なのか

IMG_0749次にパナマ文書に関するシンガポールでの対応をみると、報道後、財務省と金融管理庁が不正行為について調査すると表明したが、その後、スキャンダルを含む大きな報道はない。低税率国のシンガポールでは、他の軽課税国を利用するメリットが少ないのも背景にあろう。では、パナマやケイマンなどのようにタックスヘイブンと揶揄(やゆ)される国と、低税率国であるシンガポールは同じなのであろうか。

 

実際に、低い税率や海外という情報の壁を利用した所得の申告漏れやタックスヘイブン対策税制に関する摘発事例は、ケイマンだけでなく、シンガポールに関連するものも少なからずある。しかしシンガポールは歳入のうち、法人税、個人所得税からの税収が約30%あり、法人税率0%のケイマンやヴァージン諸島などの国とは租税体系も大きく異なる。

 

またシンガポールは、製造業からあらゆるサービス業まで現地で実体を伴うビジネスを行うことが多く、法人を設立する合理性があるケースが多い。さらに法人に対して、一部の例外を除き会計監査を義務付けており、会計に関する透明性は一定程度確保されている。税務調査についても、日本ほどではないものの調査・摘発を行っており、シンガポール税務当局(IRAS)では、告発事案を「TAX CRIME」としてサイト上に公表している。また、2015年時点で76ヵ国と租税防止協定を締結しており、国際的にも情報交換協定に参加している。

 

このためシンガポールは、租税回避に使われる余地はあるものの、形式的には他の先進国と同水準の租税環境という見方もできるだろう。

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