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法律相談

2016年1月18日

Q.所属先の部署が担当している事業が、他社に譲渡されることになりました。シンガポールにおける事業譲渡とはどのようなものですか?

シンガポールにおける事業譲渡と 労働者の保護

A:「事業譲渡」とは、ある会社の事業の全部または一部を他社に譲渡する手続です。事業とともに譲渡する資産、負債、権利、義務等を両社の合意により決めることができるという点が、事業譲渡の最大の特徴といえます。類似の手続として「合併」がありますが、こちらは、いずれか一方の会社が他方に吸収され、吸収された会社は消滅するというものです。資産、負債、権利、義務等が全て承継されるという点が事業譲渡と大きく異なります。事業譲渡を行うためには、両社の合意が必要となりますが、事業や資産を(実質的に)全て譲渡する場合、譲渡会社は、株主総会の承認決議を得なければなりません。加えて、資産、負債、権利、義務等を移転するために必要となる手続を別途行わなければなりません。

Q:事業譲渡が行われる場合、その事業に従事している従業員はどのように取り扱われるのでしょうか?

A: 両社の合意により譲渡対象を決めることができる事業譲渡では、譲渡対象となる従業員も自由に決めることができそうですが、シンガポールでは従業員保護のため、この点については異なる取り扱いをしています。すなわち、従業員が譲渡対象となる事業に従事しており、かつ雇用法の定める「労働者」に該当する場合、自動的に譲受会社に承継(転籍)されることになります。

 

また、事業譲渡により転籍する場合、雇用条件は転籍前の条件と同一でなければなりません。そのため、雇用法上の「労働者」に該当する従業員に対し、事業譲渡による転籍を認めない、あるいは事業譲渡を理由に給料を減額する、といったことは認められません。従業員が譲渡会社に対して既に有している権利や義務等もそのまま譲受会社に承継されます。

 

一方、雇用法上の「労働者」に該当しない従業員(月給4,500Sドル以上の管理職等)の場合、譲渡対象となる事業に従事していたとしても、自動的には譲受会社に転籍されません。当該従業員と譲受会社との間で転籍について個別に合意した場合に、譲受会社に転籍されることになります。

Q:事業譲渡が行われる場合、従業員は自身の取り扱いについて、会社から説明を受ける機会や、会社と話し合う機会を与えられるのでしょうか?

A:譲渡会社は、雇用法上の労働者のみならず、事業譲渡により影響を受ける従業員および当該従業員の所属する労働組合に対して、合理的期間内に事業譲渡の内容を事前通知しなければなりません。また、譲渡会社は事業譲渡の実行前に、事業譲渡により影響を受ける従業員本人または労働組合との間で、協議の機会を設けなければなりません。

Q:会社が事業譲渡に際し、従業員の取り扱いについて不適切な対応をした場合、従業員が不服を申し立てる方法はありますか?

A:従業員が雇用法上の「労働者」に該当する場合、事業譲渡による転籍の前後に関わらず、人材開発庁(MOM)のコミッショナー宛てに不服申立てを行うことが可能です。コミッショナーは、事業譲渡による従業員の転籍の時期を遅らせることだけでなく、転籍自体を禁止することも可能です。また、譲渡会社および譲受会社に対し、コミッショナーが提示する条件に従って従業員の転籍を行うよう命じることも可能です。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 野原 俊介

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.295(2016年1月18日発行)」に掲載されたものです。

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