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来星記念インタビュー

2016年1月1日

マッチフラッグに見るスポーツと芸術の交わり アジアのサッカー文化を象るために

アーティスト 日比野 克彦氏

―日比野さんにとって、サッカーの魅力とは?
サッカーは(ボール以外の)道具を使わずにできるから、世界で競技人口が一番多いスポーツだと言われています。道具を使うスポーツ、例えば野球やテニスなどは通常フォームがあり、大人でも子供でも、どの国籍の人であっても決まったフォームでプレイする。サッカーはボールを蹴るだけの仕草だから、アフリカっぽいステップやヨーロッパらしいボールの回し方があって、それぞれの地域に独自の音楽があるようにアフリカのサッカー、ヨーロッパのサッカーがあります。スタジアムにいるサポーターも単にサッカーを応援するというよりも、体に流れているリズムをゲームに感じるから一緒になってのれる、音楽を聴いたり絵画を鑑賞したりするようにサッカーを観ていると思います。だからサッカーはより文化に近いスポーツなんですね。

一方で、アジアにもアジアの文化はありますが、アジアのサッカーがまだない。監督がジーコになればブラジルのサッカーになるし、ヨーロッパの監督になればヨーロッパのサッカーとなる。まだまだ輸入されたままのサッカーなんです。日本がどれだけワールドカップで活躍しても、以前のように韓国が上位入賞したとしても、ラッキーだったねと、ダークホース的なニュースにしかなりません。アジアンスタイルの自分たちのサッカー、アジアンスタイルの応援の仕方ができた時に、世界チャンピオンになる資格ができてくるのかなと思います。

 

―アジアのサッカーが形作られるためには何が必要でしょうか。 
アジア全体でサッカーを文化としてとらえるアクションを起こしていかないといけないと思います。アジアでは、サッカーは(身体活動としての)スポーツでありまだまだ文化として考えてられていない。このプロジェクトがそのきっかけのひとつになるといいですね。 ―日比野さんの信条について教えてください。  地域社会に根差した僕のアートプロジェクトで、新潟県に明後日(あさって)新聞社というのがあり、その中の理念のひとつ「あしたではなくその次に思いを描く」が近いかな。明日の目標は割とはっきりしていますが、明後日と言うとややぼんやりしてますよね。僕の中では明後日的な、なんとなくそこにあると思われるものを見ながら進み続ける。マッチフラッグづくりでも予想以上に子供たちがたくさん来た場合、子供たちの筆さばきが下手だったとしても大人には描けない線だし、その良さや子供らしさを受け入れていくのが自分のスタイルです。ゆるい感じですけど(笑)。

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マッチフラッグ作りに取り組むラ・サール芸術学院の学生たち

IMG_5811-web日比野 克彦(ひびの かつひこ)
1958年岐阜市生まれ。東京藝術大学大学院修了。1980年代に従来のアートの枠を超えた領域横断的、時代を映す作風で注目される。国内外で個展・グループ展を多数開催するほか、「越後妻有トリエンナーレ」での明後日新聞社文化部設立や瀬戸内国際芸術祭でアートディレクターを務めるなど、各地域の参加者と共同制作を行い、社会で芸術が機能する仕組みづくりを得意とする。著書多数。日本サッカー協会理事。東京藝術大学美術学部教授。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.294(2016年1月1日発行)」に掲載されたものです。(取材・写真 桑島千春)

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