2008年7月7日
Q.感染症のコントロール及び予防に関するシンガポール感染症法に新たに加わった「犯罪となる行為」とは?
シンガポール感染症法(改正)第23条-HIV/AIDS
感染症のコントロール及び予防に関するシンガポール感染症法(Infectious Diseases Act, Cap 137)の一部改正案が国会を通過し成立しました。本改正案は、感染症の大流行などの危機に対する政府の管理能力を高めることを目的としています。また改正案には、HIV感染/AIDS(エイズ・後天性免疫不全症候群)に関し、犯罪となる新たな行為が盛り込まれ、HIV/AIDSのコントロールも高められています。本稿は、新たに加わった「犯罪となる行為」(感染症法‐第23条2項)をご紹介します。
HIV感染/AIDS発症した者が、相手にHIV感染/AIDS発症の事実及びHIV感染の危険を告げ、その上で相手側の自発的な合意を得た場合を除き、性交渉(Any sexual activities)をすることは犯罪とされています。旧第23条に規定されていた当犯罪は、改正後、第23条1項に規定されています。
改正第23条2項は、個人に対しより責任ある行動を求める目的で制定されました。第23条2項の新たな規定により、HIV感染/AIDS発症の診断未確定もしくは未判断の者でも、HIV感染の「重大な危険(Significant risk)」にさらされたと信じるに足る理由がある場合、性交渉を行う前に以下に述べる行為のいずれかをすることが要求され、これを怠ると犯罪となります。
・相手にHIV感染の危険があることを告げ、自発的な合意を得る
・HIV検査を受ける
・適切な予防措置を講ずる
第23条1&2項ともに、10年以下の懲役及び/又はS$50,000以下の罰金に科せられます。改正案により、刑期、罰金ともに厳罰化されました。また、第23条は、性別・ジェンダー・国籍などに関係なくすべての人に適用されます。
HIV感染の重大な危険とは、HIV感染/AIDS発症が未判断な状態で行われるコンドームを使用しない性交渉(Unprotected Sex)であるとされています。国会の第二読会において厚生大臣Khaw Boon Wan氏は、多くの性交渉を持った者であっても、毎回コンドームを適切に使用していた場合、感染症法の解釈において「重大な危険にさらされた」とはならないと説明しています。またKhaw氏は、HIV感染には数多くの性交渉を持つ必要が無い、例え一度のUnprotected Sexであっても「HIV感染の重大な危険にさらされた」と理解されると述べました。さらに、「適切な予防措置」とは確実で正しいコンドームの使用であるとし、HIV感染予防の観点からコンドーム使用の重要性を訴えました。
第23条2項の犯罪を免れるためには、HIV感染の重大な危険にさらされたと信じるに足る理由のある者は、「ウィンドウ期間」(HIV抗体発見が困難・不可能な期間で、一般的に感染の機会から最大3カ月間とされている)を過ぎた後にHIV検査をし、陰性の診断をされなければならないとしています。過去にHIV感染の重大な危険にさらされながらも、不注意過失でHIV検査を怠り、HIV感染/AIDS発症の状態を把握していなかった場合、第23条2項の規定により罰せられる可能性があります。
性交渉の相手から「自発的な合意」を得る方法や、危険告知の方法は定められていません。HIV感染の危険が性交渉前に、相手に十分に告げられ、それに基づいた自発的な合意があったか否かは、裁判所において個々の状況を基に判断されます。
法改正は、HIV感染者/AIDS発症者を差別するものではなく、感染/発症を知る者及び感染の危険にさらされたことのある者が責任を持って行動し、相手に感染の危険を告げることを促すものだとしています。
最後に、「そんな法律知らなかった」は正当な反論として認められません。「(重大な危険にさらされながらも)HIVに感染しているとは思いもしなかった」なども認められません。HIV/AIDSに関する医療情報などは、医師などの医療専門家にお問い合わせください。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.125(2008年07月07日発行)」に掲載されたものです。
本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。