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法律相談

2008年10月20日

Q.シンガポールの雇用法が改正されると聞いたのですが、具体的にはどのようなことが変わるのでしょうか。雇用者として気をつけなければならないことを教えてください。

シンガポール雇用法の改正について

シンガポール現地企業、そしてシンガポールに進出している日本企業にとって、労働法は会社と従業員との間の労働関係を規律する重要な法律です。労働関係の法律はいくつかありますが、その中心となるのは、雇用者と被用者の権利・義務等の基本的なルールを定めた雇用法(Employment Act)です。

 

この雇用法は、適用の対象となる被用者(Employee)の範囲が限られており、雇用法の適用がある被用者の場合、雇用契約の内容が雇用法の規定に反しないようにしなければなりませんが、雇用法の適用がない被用者の場合、労働契約は基本的に契約自由の原則が妥当し、労働条件は基本的に雇用者・被用者間の合意によって自由に決めることができます。

 

今回、政府により雇用法の改正案が発表され、9月末現在ではまだ正式に法案は成立していませんが、改正案においては、雇用法の適用される被用者の範囲に変動があります。基本的には、雇用法の適用範囲を拡げる、すなわち労働契約の自由度が狭まる方向で改正が図られています。これは労働者の側から言えば、法律により労働者の権利の保護が手厚くなることを意味します。

 

主なものとしては、まず、これまで雇用法が適用されていなかった被用者のうち、会社の秘密情報を取り扱う被用者(Confidential Staff)が新たに雇用法の適用範囲となります。すなわち、雇用者は、会計補助者や人事担当、秘書といった職種の被用者と、今後は雇用法の制限の範囲内で雇用契約を結ばなければなりません。

 

次に、雇用法第4章(休日出勤・勤務時間・休暇その他の労働条件)が適用される被用者の条件が、これまでは、月額の給与が1,600シンガポールドルを超えない被用者(手工業者や運送業者等(「Workman」)を除く)であったのが、2,000シンガポールドルを超えない被用者に変更されます。これは、近年のシンガポールにおける給与水準の上昇に対応した改正ですが、この改正により、雇用条件に関する雇用法の適用対象者が増加することになります。会社によっては、大幅に増加するかもしれません。その結果、新たな雇用法適用対象者に対しては、今後、雇用法で定められた労働条件に違反しないように注意しなければなりません。具体的には、労働時間の上限を1日8時間、週44時間とする原則(例外はあります)や、有給休暇に関する規定等が適用されることになります。

 

雇用法第4章との関係では、さらに、これまで上記のように月給が一定額を超えない被用者を対象としていた有給休暇や病気休暇の規定が、月給額にかかわらず雇用法の適用がある全ての被用者を対象とするよう提案がなされているほか、有給の病気休暇が取得できる雇用契約期間を6ヶ月以上から3ヶ月以上に短縮するなどの改正が提案されています。

 

そのほかには、雇用法に基づく雇用検査官(Employment Inspector)に対し、雇用記録の保管場所への検査権や関係者の逮捕状発行権が付与されるなど、検査権限が強化されます。さらに雇用法違反に対する罰金も5倍に増額されますので、企業としては、これまで以上に雇用法の遵守に気をつけないと、思わぬ高額のペナルティを受けることになりかねません。

 

今回の改正案が正式に法律となったときには、雇用者は、これまで雇用法自体や雇用法第4章の規定が適用されていなかった従業員について、新たに適用対象となるかどうかをチェックする必要があります。そして新たに適用対象となる従業員を特定した後には、その従業員との雇用契約が雇用法の規定に反しないかどうか、契約自体を見直すことが必要です。場合によっては、雇用契約書を作り直し、改めて契約し直さなければならない場合もありそうです。さらに、新たに雇用法の規定の適用対象となる従業員の勤務状態に気を配り、休暇や勤務時間等の規定を遵守することを忘れないようにしなければなりません。

 

なお、本稿は改正案段階で執筆されたものであるため、実際には法律となる段階で内容が修正される可能性があります。実際の改正内容をよくご確認ください。

取材協力=Kelvin Chia Partnership

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.132(2008年10月20日発行)」に掲載されたものです。

本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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