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嶋津良智の「リーダーにつける薬」

2012年12月3日

企業の究極のミッションは?

以前、ある事件がきっかけで「会社は誰のものか?」という議論がよくされましたが、これは商法上で言ったら間違いなく株主のものです。

 
では、「株主のために汗水たらして働け」と言ったら従業員は納得するでしょうか?するわけがありません。同じように株主さえ満足できればお客様がどうでもいいのか、とそんなわけがありません。

 
私はセミナーで「企業の究極のミッションは企業価値の極大化だ」とお伝えしています。要するに『企業価値』とは‘株主価値’ב従業員価値’ב顧客価値’だということです。間が+(プラス)ではなく×(掛ける)であるところに注目してください。もし間が+であれば、例えば株主価値が100で最高に良く、その他の価値が例え0でも企業価値は100になります。しかし、実際の経営はそうではありません。どの価値が欠けても企業価値は上がらない大切なものです。

 
この3つの価値を「時期」と「状況」と「規模」に応じてバランスよくハイレベルに保っていくことが『企業価値』の極大化に繋がります。

 
例えば、起業したての頃は社長が100%株主であることが多いでしょう。この場合、「株主価値」は低く抑えても「従業員価値」や「顧客価値」を高めていく工夫が必要になります。また、上場会社にでもなれば、今度は「株主価値」を軽視していては経営能力を疑われます。そのように、時期と状況と規模を勘案し、3つの価値をその時、できうる限りハイレベルでバランスを取りながら、どう企業価値を極大化していくかが企業の究極のミッションなのです。

 
先ごろ、新聞で上場企業の新任取締役にアンケートをしたところ、株主より従業員の利益を重視する傾向があることがわかったそうです。これは調査開始以来初めてだそうですが、私は少し複雑なものを感じます。これが結果論ではなく、行動の優先順位であれば何の問題もないと思います。

 
どういうことかと言いますと、オーナーである株主に配当や株価の上昇などで貢献するために何が必要なのかというと、もちろん利益です。では、利益を会社にもたらしてくれるのは誰か?もちろんお客様です。では、お客様と会社のパイプ役として頑張って会社へ利益をもたらしてくれるのは誰か?これは従業員です。ですから、株主価値を上げるために従業員の利益を重視するというのはよく理解できます。しかし、未上場ならまだしも、上場企業の役員になろうという方が、行動の優先順位でなく、結果論として株主価値より従業員価値を重んじるというのは、いささか疑問を感じざるを得ません。その真意を知りたくなるアンケート結果でした。

 
繰り返しになりますが、企業は『企業価値』を極大化するために‘株主価値’ב従業員価値’ב顧客価値’ の3つの価値を、「時期」と「状況」と「規模」に応じてバランスよくいかにハイレベルに保っていくかを考えた経営をしてほしいと思います。

文=嶋津良智(しまづよしのり)


株式会社リーダーズアカデミー
代表、シンガポール在住。
2度の株式上場体験を活かし、日本・シンガポールを始め、アジアを中心に経営コンサルとして活動。世界9ヵ国12都市でチャリティーセミナー実施。
最強の部下を育成し、最強の組織を作る、業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博す。著書7冊執筆、韓国・台湾でも翻訳されている。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.225(2012年12月03日発行)」に掲載されたものです。

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