シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPインフレを抑えつつ高成長を続けるための改革が必要・他

インドの今を知る

2011年9月11日

インフレを抑えつつ高成長を続けるための改革が必要・他

インフレを抑えつつ高成長を続けるための改革が必要

日本経済新聞の2011年7月28日付記事「インド経済のジレンマが促す構造改革」によると、インド準備銀行(中央銀行)が政策金利(レポ金利)を0.5%引き上げ、年8%にしました。市場では0.25%の利上げを予想する声が多かったものの、物価上昇率が9%台と高いため、断固としてインフレを抑え込む姿勢を打ち出したといえるようです。

インド経済はリーマン・ショックの影響を比較的早く抜けだし、2010年度GDPは前年度比実質8.5%増えました。ただ、高成長の副作用としてインフレも進行。そのため準備銀は10年3月に利上げを再開、今回が11回目で合計の利上げ幅は3.25%になりました。金融引き締めの効果で、景気には減速感が出始めています。たとえば、09年後半から10年にかけ年率20%を超える勢いで伸び続けた新車販売台数は、今年6月に7%増と2年ぶりの低い伸びに留まりました。インド政府の11年度の成長率目標は、当初の9%から8.6%へと下方修正を余儀なくされています。そして政府・当局にとって悩ましいことに、景気は減速気味なのにインフレは収まる気配を見せていません。インフレや景気過熱を回避しながら8%以上の高成長をどう保つかというインド経済が直面するジレンマは、改めて長期的な成長戦略を問いただしています。

インフレを抑えつつ高成長を続けるうえで決定的に重要なのは、物流網や発電などインフラ整備による供給力の改善です。政府は12年からの次期5ヵ年計画でインフラ整備に現在の倍の1兆ドルを投じる考えで、その半分は民間でまかなう方針です。問題は、かつての社会主義的な経済運営の名残もあって民間投資を阻害する仕組みがなお少なくないことです。たとえば発電の主要燃料である石炭の供給や送電は国有企業が大きなシェアを握り、電力産業全体の効率の向上を妨げています。

インドが「社会主義」を脱して自由化路線に踏み切ったのは1991年ですが、背景には外貨準備が底をつくという危機がありました。20年前に比べれば、現在新たな構造改革が必要だという切迫感はない状況で、20年前は蔵相として自由化を主導したシン首相の指導力が、今こそ問われています。

黙っていては生存競争に勝てない

日経BPの記事「“空気を読まない”インドパワーが世界を制す?!」(2011年7月27日付)は、前参議院議員で、現米エール大学マクミラン国際関係研究センター シニアフェローの田村耕太郎さんのコラム。今回は、ナポリで開催されたグローバル・インディア・ビジネス・ミーティング(GIBM)で見られたインドのパワーについてでした。年間に生み出されるエンジニアの数は、日本が2万人強なのに対し、インドは30万人。GIBMでのパネルディスカッションでは、途中から5人のパネリストをさしおいて、手を挙げて勝手にしゃべりだす聴衆の方が主役になってしまい、パネルディスカッションが終わって、質疑応答となると、あまりにも質問が多くて終わらなかったそうです。

4年ほど前の議員時代に田村さんがインドのインフラ開発担当の大臣に挨拶に行った時、面会時間は1時間だったものの、このインド人閣僚は50分はしゃべり続け、かろうじて息継ぎのすきを狙ってしゃべることができたそう。インド人の一人に聞くと、「わしらの小さいときは教室に何百人も生徒が居り、どんどん手を挙げて、当ててもらえなくてもしゃべらないと認識されない。黙っていては生存競争に勝てないのだ」と笑っていたそうです。

某日系航空会社がインド路線を一時閉鎖した時のその背景を聞くと、「飛行中、キャビンアテンダントへの呼び出しがとにかく鳴りやまない。インドのお客さんは遠慮がないと、体調を壊すキャビンアテンダントが続出しました」といいます。
また、東京裁判において、反対意見を堂々と述べたのもインド人の判事でした。戦勝国によって“空気”が作られた東京裁判において、唯一パール判事が「勝者が敗者を裁く、こんな裁判は茶番である」と言い切りました。

その場がどんな空気であろうと自分の思うところを常に堂々と述べるのがインド人。インド人が雄弁である背景には、「インドの時代は今に始まったことではない」という自信もあるのでしょう。

スクリーンショット 2015-07-01 20.12.58

土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.196(2011年09月11日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPインフレを抑えつつ高成長を続けるための改革が必要・他