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2011年9月19日

協定改定を進めるためにも、国内の規制改革に取り組むべき・他

協定改定を進めるためにも、国内の規制改革に取り組むべき

2011年8月3日付日本経済新聞の記事「日印EPAは中身をもっと濃くしたい」は、同1日に発効した日本とインドの経済連携協定(EPA)について。「両国はお互いに関税を引き下げ始めた。新興の経済大国と初めて協定を結び、市場開放に踏み出したのは一つの成果だが、これで両国間の貿易を自由化する道が完成したわけではない」としています。

人口が縮小する日本の経済が成長し続けるためには、元気がある海外の国々と、絆を太くしなければなりません。中国に依存しすぎないためにも、インドは極めて重要な経済連携の相手国です。しかし現行の日印協定の内容では、両国の関係を緊密にし、日本経済を押し上げるには力不足です。協定に期限を定めた見直し条項を盛り込めなかったのは残念ですが、日本政府は改定交渉に果敢に挑み、自由化の中身に磨きをかけるべきです。

最大の問題は、ライバルの韓国と比べて、多くの品目で日本が不利な条件になっている点です。2010年1月に発効した韓印の協定と日印の協定を比べると、インド側の関税削減のテンポは、特にエンジンなどの自動車部品で韓国に対しての方が速く、韓国から輸出した方が安いことになります。また、インドは国内の自動車産業を保護するため、日韓に対して完成車の関税削減に応じませんでしたが、EUとの交渉では幅広く協議しています。印EU交渉は年内にも決着する見通しで、欧州製完成車が関税削減対象となれば、日本の自動車メーカーは対印輸出で決定的に不利になってしまいます。

通商交渉は「ギブ・アンド・テーク」で、インドにさらに関税削減を迫るには、まず日本側が市場開放しなければならなりません。インドが求めているのは、インド人の看護師や弁護士などが日本で働けるようにし、両国で二重に社会保険料を払わないようにするなどの制度改革です。サービスや人の移動の分野は、現行協定には盛り込まれず、交渉を先送りしたままです。労働市場の開放にかかわる問題は、政治に指導力がなければ交渉は進みません。
日印EPAは未完成で、経済連携の一段の強化をインドに呼びかけ、協定改定を進めるためにも国内の規制改革に取り組むべきです。

海外志向と逆境で鍛えられた精神力

JCASATニュースの8月1日付の記事「なぜ『インド人経営者』は世界で活躍できるのか」は、新興国の雄として、中国と並んで急成長を遂げているインドの「輸出商品」として最近注目されている「経営者」について。経済アナリスト・小田切尚登さんのコラムです。
世界で活躍するインド人社長は欧米に留学した人ばかりかというと、そうでもありません。マスターカード社長のアジェイ・バンガはインド工科大学の卒業で、最初の12年間はネッスルのインド子会社に勤めていました。

数多くのインド人が欧米の大企業のトップになっている背景にあるのは、米タイム誌の記事「India’s Leading Export: CEOs」の分析によると、(1) 英語ができる 、(2) 多民族・多宗教・多言語の国である、(3) 貧しい発展途上国である(有能な人材は海外に向かう)、(4) 政治家や官僚が腐敗していて市場が機能していない(そんな環境で訓練されていけば、世界のどこに行ってもやっていけるタフさが身につく)、とのこと。
日本では、日本人が日本企業のトップの大半を占めていることは当然ですが、欧米の企業のトップになるような人材は、ごく少数。日本人は、上記のインド人の特徴をちょうど逆にしたようなものかもしれません。

ビジネスのしやすさランキングは、インドが世界134位、日本は18位です。日本人も数学などの知的能力ではインド人に負けませんが、英語力や議論・交渉の力あるいは論理性が弱く、欧米人を従えるところまではなかなか行きません。一方、インド人エリートは数学の力に加えて、英語も母国語並みで議論も強く、確かに最強のリーダーになる素質があるようです。

「日本人は日本でやっていればよい」という時代は終わりました。世界の中枢にある国際的組織の幹部に日本人がどんどん入っていくことが、日本の国益につながります。アジア人でも力があれば欧米企業のトップになれることを、インド人は示してくれました。若い日本人にはぜひ外に出てチャレンジしてもらいたいものです。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.197(2011年09月19日発行)」に掲載されたものです。

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