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2012年1月1日

インドビジネス2011年回顧と2012年の展望

2011年のインドビジネスを振り返って

2011年のインドは、3月に人口が12億人を突破したことが判明し、8月1日には日本との経済連携協定が正式発効しました。同じく8月には、インドの活動家が汚職に抗議してハンストしたことが話題になりました。そして、11月には、インド政府が、小売業の外資規制を緩和する方針を発表して話題となりました(その後、国内での反発を受けて実施は一旦12月に延期されました)。

日本企業にとっては円高の進行もあり、グローバル化、とりわけインドへの進出意欲は大きく拡大しました。在インド日本大使館がまとめた統計によると、2011年10月末時点で、インドに進出した日本企業は812社にのぼり、2006年初頭の267社から約3倍に増加しました。インド市場に進出した日本企業を産業別にみると、自動車産業と電気機械産業が中心ですが、消費者向けの日用品メーカーなども進出に力を入れ始めています。

一方インド経済の状況は、2010年からの好調を維持し、2011年を迎えました。消費の活発さを表す新車販売台数で見ると、2010年の新車販売台数は前年比34.1%増で、初めて300万の大台を突破するなど好調でした。しかし2011年4月以降伸び率が鈍化し、10月には前年同月比13%減となり、リーマン・ショック後の低迷期以来の大きな落ち込みを記録しました。前年同月比で2ケタ近いインフレを収束させるため、中央銀行が繰り返し実施した利上げにより、自動車ローン金利が上昇したこととなどが影響しました。

インド経済の2011年は、物価高、ルピーの下落に象徴される年となりました。ルピー相場は、年初には1米ドル=45ルピー程度でしたが、11月末には1ドル=52ルピーを突破し、15%強も安くなりました。対円のレートではもっと極端で、年初には1ルピー=1.85円の水準にありましたが、12月12日時点では1ルピー=1.50円を割り込み、20%近くも下がってしまいました。この下げはユーロ危機の影響を受けたことが大きく、主因は手元資金確保のため欧州の投資家、とりわけ英国勢がインドの社債、株式を大量に売却したことによるものです。

ウォールストリート・ジャーナル12月6日号では、「もし通貨下落に歯止めがかからなければ、インドは過去十年で最悪の経済危機に直面するだろう」と指摘しています。インド政府は2011年12月、資本流出を食い止めようと、海外投資家の債券・株式購入規制を緩和する検討を始めています。

スズキはインドルピーの下落で営業利益が44億円目減りするなど、既にインドに進出している外国籍企業は大きな痛手を被りました。

 

 

2012年のインドビジネス展望

2012年を展望すると、欧州危機は悪化の方向に向かうとする予測が多いようですので、そうなった場合、インドの経済成長の頭を抑えることになるでしょう。一方、ルピー相場の点から、今はインド進出の絶好機とも言えるでしょう。インド政府は貧困の撲滅のためには経済成長が必要としており、ルピー安や小売の規制緩和が進めば、インドへの投資は一層拡大し、成長を促すでしょう。またルピー相場はインドからの輸出もサポートしますので、インドの輸出拠点化が進むでしょう。

2011年秋に起きたタイの洪水では、日産がタイからの輸出減少分をインドからの輸出で補いました。2011年は東日本大震災やタイの洪水など、サプライチェーンの問題が繰り返し浮き彫りになりました。そのためリスク分散の観点からも、インドの拠点は見直されることになるでしょう。

また、すでにインドに進出した企業は、稼いだルピーの持ち出しがしにくい状況ですので、2012年はインド国内での再投資、特にこれまで手薄だった第2級都市や地方農村部への販売網拡大が加速しそうです。インド企業にとっては、欧州への輸出は引き続き減速せざるを得ないでしょうから、アジア、中でも円高の日本への輸出に力を入れてくる可能性があります。

ルピー安や、欧米の金融緩和の流れから商品価格の上昇は当面続くでしょうが、一方でインドの物価はそろそろピークアウトするだろうと予測しているエコノミストもいます。2012年のインド経済は、物価動向に引き続き注意が必要で、中銀の金融政策が鍵を握ることになりそうです。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.203(2012年01月01日発行)」に掲載されたものです。

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