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シンガポール不動産「耳寄り情報」

2012年7月16日

日本とは大きく異なる取引慣行

ここシンガポールの人々は、顔だちが日本人に似ています。また、さすがアジアのビジネス・ハブだけあって、日本語を話せる人も少なくなく、日本との時差もわずか1時間。「ここは日本と同じ」との錯覚に陥りがちです。しかし、ここはやはり外国。不動産の取引慣行も、日本とは大きく異なります。

1. 「間取り図」が無い?

まずビックリするのが、デベロッパーによる新築物件の分譲を除いては、売買でも賃貸でも「間取り図」を提供する慣行がありません。また、物件の表記は、「寝室数」と「専有面積」で表示するという大雑把なものです。例えば、「3 Bedrooom approx. 1250 square feet」とあって、修飾説明として「D10 Aspen Heights」のように、地区(D=District)やコンドミニアムの名称などが付記されるのが普通です。

実は、この表示法は英国や豪州でも同じです。シンガポールは、元々英国の植民地だったため、多くの法律や制度、取引慣行が英国のものを踏襲しています。英国では、築百年近くの物件もざら。「間取り図」が残っているわけもありません。

また、英国の法律では、物件についての説明(例えば「間取り図」の中身など)が事実と異なっている(=誤りがある)と、相手側からの解約事由になる点も、間取り図を開示しない理由の一つとも言われています。

2. 事件があった場所と後日わかっても解約できない

築年数の長い建物も多い英国で、その物件でかつてどんな事があったかを正確に把握するのはほぼ不可能です。入居後に、そこで自殺や殺人事件などがあったと分かっても、買主や借主が契約を解除することは出来ません。シンガポールも同様です。かたや、日本では解除可能です(自然死を除く)。

ただし、契約に先立ち、「ここでは自殺や殺人事件などがありましたか?」と質問して、「無かった」との返答を得たのに、それが事実でなかった場合は、「不実説明」を理由に契約解除が可能となります。

3. 入居後まもなく近隣で大工事が始まって、その騒音に耐えられない……

日本では、いわゆる宅建法で、契約に際して、近隣の工事計画を含む「重要事項」を、宅建主任者が事前説明しなければならない事になっていますが、シンガポールでは義務化されていません。入居した途端に、隣地で杭打ちが始まり、騒音に耐えられないと言っても、それが合法な工事である限り、解約事由にはなりません。

ただし、その場合も、家主や家主側不動産業者が事実と異なる説明をしていた場合は、「不実説明」で契約解除が可能となります。言い換えれば、説明が無かった場合には解約事由にはなりません。

4. 借主による期中解約はできない。

シンガポールでは、いわゆる転勤解約特約(Diplomatic Clause)を除いて、借主側からの一方的な期中解約はできません。かたや日本では、借家法で借主は理由の如何にかかわらず、1ヵ月前の通知で期中解約できる事になっており(定期借家契約を除き)、借主の立場が極めて強くなっています。まさに、所変われば品変わる、です。

 

文=木村登志郎(パシフィック不動産株式会社CEO)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.216(2012年07月16日発行)」に掲載されたものです。

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