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ビジネスインタビュー

2010年10月18日

利用者がうれしいサービスを提供、「共存共栄」のビジネスモデル

株式会社ジー・コミュニケーション 代表取締役 山本大介さん

 

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国際化の波に乗り、特に80~90年代のバブル期に急成長を遂げた語学教育産業だが、ここ数年続く慢性化した不況で、全国に数百の教室をもつ有名校さえ相次いで倒産するという事態を招いた。多数の講師や、既に数年分の授業料を多額に払い込んだ大勢の生徒が困惑する様子がメディアで伝えられていたのも記憶に新しい。

 

株式会社ジー・コミュニケーションは、2007年に駅前留学で知られる英会話教室NOVAを株式会社ノヴァから、そして今年4月、株式会社ジオスから英会話事業を譲受し、シンガポール、タイ、台湾、香港にあるジオス4校も連結子会社とした。

現在、シンガポールのジオスでは、新しい経営陣のもと、以前と変わらない独自の優良レッスンが引き続き提供されており、来年にはより設備の整った新校舎への移転が計画されるなどの明るいニュースもあって、経営環境も好転している。

これらの語学学校の大型譲受に名乗りを上げたジー・コミュニケーションとはどういう会社なのか,その事業内容と今後の展望について、常務取締役山本大介氏に話を聞いた。

 

11の事業軸から成るジー・コミュニケーショングループ

株式会社ジー・コミュニケーションは、1994年に設立した名古屋にある学習塾「がんばる学園」(現・株式会社ジー・エデューケーション)からスタートし、現在は、教育産業の他、飲食店経営などのフランチャイズやコンサルティング事業、酒造業や旅館経営までを擁するホールディングカンパニーだ。学習塾という教育事業から始まり、塾講師の社員食堂代りとした居酒屋の「はいから屋」の経営が加わった。創業社長の稲吉氏の実家がうどん屋だったこともあり、飲食ビジネスを並列で行うことへの不安も無かったという。「はいから屋」が10店舗ほどになった頃、銀行員だった山本さんが別の飲食店チェーンのM&Aを稲吉氏に勧めたことがきっかけとなり、山本さんもジー・コミュニケーションの経営陣に仲間入りした。

 

教育産業、飲食業の2本柱でのフランチャイズ展開を中心に拡大を突き進めてきたビジネスモデルは、関連性が低いようでありながら、経営の側面から見ると相互に応用できる部分も多いと言う。「学習塾を起業後、資本ができた経営者は、次段階として応用のきくフランチャイズの事業に興味を持たれることが多い。ビジネスの横の軸を伸ばす意味でも理に叶う発想ですし、飲食業は教育産業より更にマーケットが大きいのも魅力のひとつです」と山本さんはいう。また、「弊社のように、フランチャイズで50を超えるブランド数を抱えつつ、自社で直営の業態も持つというのは珍しいでしょう。これは、我々が自社で店舗経営などのノウハウを蓄積してきた証であり、企業構造を根本から組み替えるターンアラウンドを目指したM&Aを得意とすることからなのです」と付け加えた。

 

ターンアラウンドの成功事例のひとつとして、株式会社ノヴァの英会話教室「NOVA」の再生が上げられる。もともと英会話教室の収益は良かったが、長期のローンで生徒が授業料を支払うため、会社には現金が前もって入ってくる仕組みになっており、過剰な教室展開やテレビのCMなどに経費をつぎ込むという損益と現金の動きが異なる経営体質が問題だった。

「買収時100億円を超える返済金があったため、破産申請せざるを得なかったのですが、すでに授業料を支払済の生徒には、総支払額の25%を負担すれば、契約した授業時間を保証しました。ですから、数年間は我々に経常利益はなく、事業として近年ようやく黒字転換できました。現在、受講費は月謝制で、授業の予約はインターネットを導入し、いずれの教室で授業を受けてもよい事にするなど、生徒さんがなるべく利用しやすいよう、利用者目線でひとつひとつ新たなサービスを積み重ねたことが、ここまでの再生に繋がったのです」と説明した。

 

ジーコム・ジオスの誕生

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最新鋭のシステムを備えた中国・瀋陽のオペレーションセンター

今年4月、株式会社ジオスと「ジオス英会話」「ジオスこども英会話」の一部校舎ならびに通信講座「e-ジオス」の事業譲渡契約を結んだ後、承継されたジオス校舎(英会話170校・こども英会話223校)では、破産宣告後3日後には授業の再開がなされ、閉鎖された譲渡対象外校舎(100校)の生徒に対しては「近隣の譲渡対象校舎へ転校またはe-ジオスへ変更」「近隣のNOVAへ転校またはNOVAの通信講座『お茶の間留学』へ変更」の選択肢を提示した。既存の受講生に比較的混乱も見られなかったのは、NOVAでの経験を活かし、ジー・コミュニケーションの対応が迅速で的確なものだったからといえる。

 

都合の良い時に授業を選んで受講する利便性重視のNOVAと比べると、担任制で生徒の語学習得の成長を見守る方式のジオスのやり方は、文法力などトータルに力をつけたい初級から中級のレベルに適していると山本さんはいう。今回、アジア5拠点のジオスを直営として傘下に納めたのも、語学として英語を学ぶだけでなく、その国の文化などもふんだんに盛り込んで教えるスタイルが海外に暮らす駐在員の家族などに向いているという点に着目したからだ。既存の5拠点をベースに今後もアジア圏内に教室を増やして行く予定だ。

 

また同時に「英会話学校の授業料や留学費用がまだ高い。もっと価格を抑えて、夏休みに日本の一般家庭の中・高校生が気軽に留学できる環境を作りたいです。それには、航空券や生活費が手頃なアジアが最適です」と、山本さんは留学事業の拠点にもしたい考えだ。また、通信機能を生かし各国の教室と繋がって話ができるようにすることで、NOVAの「お茶の間留学」のコンセプトをジオスに取り入れて行く等、新たな展開も計画している。 「シンガポールには、英語と中国語が同時に学べる貴重な環境があります。将来日本から来る学生が、両方の言葉を理解することは、将来大きな糧となるでしょう。もし、その学生がシンガポールを気に入って、当地の大学に入学し、将来はシンガポールと日本の架け橋となる存在になってくれたら。そんな夢も持っています」と語る山本さんには、既に可能性を現実化するための力強いビジョンがある。

 

ジー・コミュニケーションの双璧のひとつである飲食業の分野でも、アジア各国で参入を進めて行く予定だ。「同じ東南アジアでも、バンコクとシンガポールではマーケットが求める和食のレストランの形態が少しづつ違う。我々は、日本国内にある多種多様な飲食店フランチャイズの中から、アジア各国で求められる日本食の種類や業務形態にあったものを選んで展開することができるのが強みです」と山本さんはいう。また同時に、既に各国に存在するチェーン店などもM&Aの対象として視野に入れている。「共存共栄」を掲げるジー・コミュニケーションが打つ次なる一手に注目したい。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.177(2010年10月18日発行)」に掲載されたものです。
取材=桑島千春

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