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2016年11月7日

日本ならではの多店舗型セレクトショップを確立 ユナイテッドアローズ

ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクター 鴨志田 康人(かもした やすと)氏

日本で多店舗(チェーン店)型セレクトショップという業務形態を確立したユナイテッドアローズ(以下UA)。同社の執行役員でありクリエイティブディレクターでもある鴨志田氏はUAの創業メンバーであり、世界でも屈指の名バイヤーの一人だ。今回、日・シンガポール外交関係樹立50周年(SJ50)を記念し、10月21日にロバートソンキーにあるセレクトショップCOLONY CLOTHING主催のファッションイベントに出席した鴨志田氏に、東南アジアと日本におけるアパレル業界の今とこれからについて伺った。

 

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SJ50ファッションショーケース「壁のない部屋」でのパネルディスカッションの様子。主催のCOLONY CLOTHINGにて日本とシンガポールの人気ブランド(supermamaやKevin Seahなど)を紹介した。www.colonyclothing.net

 

―初来星と伺いました。シンガポールの率直な印象を教えてください。

渡星前は、高層ビル街とマーライオンのイメージが強かったです。清潔だけど殺風景な街なのかなと。でも実際はいろんな人々が行き交うメルティングポット(人種のるつぼ)で、街に歴史や深みがあり、とてもエキサイティングな国だと感じますね。

 

私は旅先でその国のローカルフードを食べるのが大好きで、今朝もカヤトーストをチャイナタウンへ食べに行きました。そのお店の親父さんが「半熟卵をぐるぐる回してパンにつけて食べろ」って教えてくれました(笑)。こういうローカルならではの体験から本当にいい刺激を受けますね。

 

―先ほどのパネルディスカッションで「今のシンガポールのアパレル業界の状況が1980年代から90年代の日本のそれと酷似している」という指摘がありました。当時の日本のアパレル業界はどうだったのでしょうか。

メンズファッションにフォーカスして話すと、1960年代の米国のアイビーブームに始まり80年代以降ブリティッシュやフレンチ、90年代になるとイタリアンブランドが日本へ入ってきました。特にバブルの頃は、「ブランドものさえ着ていれば」という風潮が強かった。それが90年代以降、景気が落ち込んだことで自分を見つめ直し、地に足をつけて自分のあり方を模索する時期に入ったと言えます。必然的にファッションもブランド重視でなく、自分にあったスタイルや着こなしを考え始めた。80年代から90年代の日本は様々な国のファッションを吸収し、オリジナルな着こなしに目覚めた時期だと思います。

 

―UAの創業メンバーであり、バイイング(買い付け)だけでなく商品企画、店舗内装監修にも携わられていますが、シンガポールや東南アジアのアパレル業界の現状についてどんな印象をお持ちですか。

十分視察できていないので軽率なことは言えませんが、欧米の有名ブランドの店舗はあるけれど成熟した小売店、例えばセレクトショップやスペシャリティストア、つまりはアイデンティティを持った店がまだまだ少ないと聞きます。中国や先日行ったタイ・バンコクも同様の印象でしたね。

 

―服のリミックス(着こなし)を顧客にあわせて提案する販売スタイルがシンガポールでは根付きにくいといった声を聞きます。この点についてはどう思われますか。

販売スタイルは国によって異なってきます。日本だと店員にとってお客様は神様的な位置づけですが、イタリアでは極端にいえば「あなたなら売ってもいい」という真逆の立ち位置です。「その店員に認められて買い物ができる大人になりたい」と若い人は思うわけだから、それはそれでいいわけです。言い換えればその国のカルチャーによって販売スタイルも変わってくるのでしょうね。

 

日本の店舗の特長の一つに、商品の品質だけでなくセールスパーソンのパーソナリティやセンスの良さが挙げられます。人柄やコーディネートに惚れて「次もこの人から買いたい」という心理がお客様に生まれる。東南アジアにそういった販売スタイルが根付くかどうかは正直まだ分かりません。ただシンガポールにしても、そこで実際に生活している人たちが自分の生活を、人生をより豊かに生きたいと求めれば、ファッションの成熟度は自然と増していきます。未知数という意味で今後がとても興味深いですね。

 

―UAの海外店は現在、台湾の2店舗(台北店・林口店)ですね。今後さらに東南アジアへ出店する予定はあるのでしょうか。

それ以外の国への出店は今の段階では考えていません。台湾は日本文化やファッションブランドについて知識がある人が多く、現地スタッフにゼロから教える必要なくスムーズに店舗をオープンできたことが大きかったと思います。ただドレスウェアの部門はルールやハウツーがいろいろあるので、課題はまだまだあります。

 

私たちはあくまでリテーラー(小売業)であり、欧米や国内のブランド、UAのオリジナルブランドをリミックスしてお客様に提供するセレクトショップという立場です。もちろんこれだけSNSが普及し、インスタグラムが流行れば、リミックスの提案に対する抵抗はなくなってきているでしょう。ただ大事なのは、ベースとツイスト(個性)は違うということです。例えば日本の場合、米国に始まり約50年かけて様々な国のファッションルーツやノウハウ、TPOに合わせた着こなしを積み重ね、土台を作り上げてきた。ファッションというのはまずベースがあって、それをいかに自分なりにツイストするかです。(出店先の国が)ベースを作るには時間がかかりますね。

 

一方、海外進出にはブランド力が必要なのも事実です。クリエイティブディレクターという立場からUAのオリジナルブランドを見た時、まだその時期ではない、ブランド力を高める必要があると思っています。

 

―鴨志田さんは常に「(ファッションにおいて)ローカリズムが大切だ」と発言されています。もう少し詳しくその意味を教えてください。

洋服に限らず、プロダクトには必ず国民性が反映されます。日本製は丁寧だしディテールにこだわりがあり、オリジナリティもある。デニムでいうと本場・アメリカより日本製のほうが今は優れています。逆に日本のオリジナリティが研究されている。

 

世界の隅まで情報が行き渡り、ネットで何でも調べられる、マネができる時代だからこそ「グローバルなものを作っても意味がない。ローカルが大切だ」と言いたいですね。例えば母親が作るみそ汁の美味しさは簡単には再現できない。そういう微妙な差なのかもしれません。だからこそ飽きられないし長く愛される。ローカルを大切にするということは、自分の生活を楽しむ、住む街を愛する、生まれた国を大切にする前提で成り立つものです。そういう信頼感に基づいて生まれたプロダクトの良さはどの国の人にも通用するのです。

 

―確かに、今回のイベントに日本から一緒に出席されたリングヂャケット社は世界的なクラシックブームもあり、テーラーの売り上げは日本国内より米国や韓国、マレーシアなど海外のほうが大きいと聞きます。

ファクトリーブランドの草分けであるリングヂャケット社の福島薫一代表取締役社長とは長い付き合いですが、福島社長のされていることは、(アイビールックの生みの親・石津謙介氏の盟友でヴァンジャケットの縫製工場を営んでいた父・乗一氏の時代から)ずっと変わらないんです。ひたすらいい物を真面目に作り続けている。日本ならではのクラフツマン(職人気質)を大事にすること、つまりローカリゼーションに拘ることで結果的に世界へのアピールにつながると思いますね。

 

―プライベートについて少し教えてください。

趣味はゴルフと旅です。特に各国のカフェ文化に触れるのが大好きです。イタリア、ロンドン、サンフランシスコ、ベルリンと数えきれない程行っていますが、ベルリンは東ドイツっぽい重みのあるカフェが残っていてとても良かった。どのカフェもその国の文化を象徴しており、「ここが最も魅力的」と言えないですね。

 

―最後に読者へメッセージをお願いします。

異文化に飛びこむのは大変なことです。若造のバイヤーだった頃、イタリアの高級ブランドや一流ファクトリーを訪ねてもまったく相手にされませんでした。毎回おしゃれを工夫して、行脚を重ねました。いかに服好きで、服作りに興味があるかをパッションで伝えて切り開いてきた気がします。その街に住んで、地元の人たちと交流しながら、何事もポジティブに楽しむ。そこから見えてくるものを感じてほしいですね。

313web_img_4814-portrait鴨志田 康人(かもした やすと)
1957年東京・台東区生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売・バイヤー業務を経て1989年ユナイテッドアローズの創業に参画。クリエイティブディレクターに就任後、自身で立ち上げたドレスブランド「Camoshita(カモシタ)」が2013年アジアで初のピッティ・イマージネ・ウオモ賞(イタリア国内と世界的なファッション業界全体において長年重要な役割を担う人や会社に贈られる)を受賞するなど世界を股にかけて活躍中。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.313(2016年11月7日発行)」に掲載されたものです(取材・写真 : 宮崎 千裕)

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