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星・見聞録

2014年7月1日

メイド(MAID)・イン・シンガポール

多数の外国人労働者が働き、暮らすシンガポール。その約16%を占めるのが、Work Permitビザを取得し住み込みで雇用主の家事を手伝うメイドの女性たち。女性の労働力を活用するため、日本政府も今年5月、「雇用改革拠点特区」の福岡市で在留資格を緩和し、外国人メイドを受け入れる検討を本格的に始めた。先駆者ともいえるシンガポールのメイド事情を取材した。

 

「外国人メイド計画」で女性の労働力化

シンガポール政府は、シンガポールの女性の労働人口を増やすことを目的に、1978年に「外国人メイド計画」を立ち上げ、働く女性の代わりに家事や育児を担う移民の許可を拡大した。1978年当時、約5,000人だったメイドの数は、2007年末に18万3,200人、2013年末には21万4,500人と年々増え続け、現在では、約5世帯に1世帯が雇用。2003年に50.9%だった女性(15歳以上、国民と永住者)の労働力率も、2013年に58.1%へと上昇。日本と比べて子育て世代の落ち込みも少ない。この政策が女性の社会参加を促す後押しになったと言われている。

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高齢化で2030年に30万人のメイド需要

高齢化への道をたどるシンガポールでは、外国人メイドに高齢者介護や生活サポートの人材としての期待も高まる。2011年のシンガポール首相府(PMO)の調査によると、働いていない高齢者世帯の12%(6,000世帯)が1人以上のメイドを雇用。2000年の6%(1,500世帯)から雇用率が倍増している。シンガポールの2030年の高齢化率は推定24%、独居高齢者は9万2,000人。PMOは2030年には30万人のメイドが必要になるとの予測を発表している。

 

送り出し国の変化で確保に課題も

メイドはほとんどが山岳・農村地帯の女性による「出稼ぎ」。出身別割合は発表されていないが、支援団体「FAST」によると、半数近くの約10万人がインドネシア、続くフィリピンが約8万人、ミャンマーが約3万人で、他にインド、スリランカ、ネパール、タイ、バングラディシュ、カンボジアなどの出身者がいる。給与相場は各国で違うが、月400〜600Sドルほど。初来星する多くのメイドが、給与の中から出身国のエージェントに配置料として約2,000〜3,000Sドルを支払う。そのため雇用主が賄う最低限の食費や生活費を除いて、最初の4〜8ヵ月は無給で暮らす場合も多い。
一方、香港や中国とのメイド獲得競争も始まり、今後もシンガポールで働くメイドを多数確保できるかどうかは不透明だ。経済発展で彼女たちが出身国内で仕事を得る機会も増えている。さらに、フィリピン、インドネシア両国政府は国民の保護や国内経済発展のため、今後、海外への出稼ぎ労働者を減らすと表明し、エージェントへの規制を強化、賃金相場も上昇傾向にある。そこで、シンガポールは政府間交渉の末、昨年、新たな送り出し国としてカンボジア人メイドの受け入れを始めた。

 

虐待や事件も

メイドはシンガポールの人々にとって切り離せない存在である一方で、肉体的・心理的虐待を受けるメイドや、逆にメイドによる幼児や高齢者虐待などの犯罪も度々報告されている。また、HDBでの洗濯物干しや窓拭きなどの作業の最中に、メイドが高層階から転落する事故なども発生している。
MOMは2012年5月から、シンガポールで初めて働くメイドに対し、SIP(Settling-In)プログラムと呼ばれる1日の安全講習を義務付け、物干し竿の扱い方などを教えている。また、過酷な労働条件が事件や事故によるけがを引き起こすとして、2013年からは、メイドに週1度の休暇を与えることを法律で義務付けた。


INTERVIEWメイド支援団体

スクリーンショット 2015-07-01 17.33.50見知らぬ土地での出稼ぎでストレスに晒されるメイドたちのため、当地では多くの支援団体も組織されている。仲間づくりのイベントや休日のトレーニングコース、24時間の電話相談などを手掛けるNPO団体「FAST」―Foreign Domestic Worker Association for Social Support and Training―ダイレクターのウィリアム・チュー氏に話を聞いた。

 

 

―トレーニングコースとは

各地のコミュニティーセンター(CC)などと提携して、主に日曜日、常時30以上の講座を開催しています。どれもメイドが支払う額は1回5Sドル程度、CCなどへ支払う額の残りは、寄付から補てんしています。

 

―コースの内容と意義は

第1にシンガポールで安全に暮らすためのルールを教えること。彼女たちは主に田舎の貧しい家庭の出身。中には「信号を見たこともない」という人もいます。2つ目は料理や幼児のケア、介護などのスキルアップ。3つ目は故郷に帰った後に仕事を見つけるため。起業の方法や経営、ホスピタリティ、プレゼンテーション、コンピューターなどです。実際に帰って起業した人たちも多くいます。また、1ヵ月に1度、シンガポールの歴史や慣習を学ぶバスツアーも開催しています。例えば旧正月になぜ掃除をしてはいけないのか、当地の文化を学ぶことでより雇用主とのコミュニケーションが円滑になります。

 

―電話相談にはどんな悩みが寄せられますか

月平均120〜150の電話がありますが、最も多いのは「孤独」。家族や友人と離れ、寂しくて誰でもいいから話し相手になってほしい、というもの。2番目は契約上の問題です。雇用主が休日をくれないといった問題など。3番目は金銭トラブルです。これまでの事例では▽恋愛のもつれから自殺未遂をして解雇されてしまった、入院費用が支払えない▽雇用主の破産で給料が支払われない―などの問題がありました。深刻な虐待などの例では、ウッドランズにある大規模なシェルター(避難施設)などを紹介することもあります。

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―5月にはメイドのためのクラブハウスも完成しました

寂しさを抱える人々が非常に多いことから、集まる場所が必要だと考え、旧マレー鉄道タンジョンパガー駅付近に作りました。ショッピングセンターではお金を使ってしまえばおしまい。ここでは、集まって一緒に新しいスキルや英語、パソコンを学んだり、読書をしたり、「Skype」で家族の顔を見て話をしたりできる設備があります。また、弁護士会によるボランティア法律相談も8月から開始する予定で、ワンストップサービスを提供します。

 

―日本では、外国人メイドを受け入れる検討が始まりました

恐らく、とても時間のかかる作業だと思います。英語が通じるシンガポールでさえ、彼女たちは寂しさを抱えているのですから、コミュニケーションの問題が非常に大きなウェイトを占めると思います。

 

 

FASTでは和食や生け花のボランティア講師、クラブハウスの図書館への本の寄付、イベント後援などで協力できるボランティアやスポンサー企業、寄付を募集している。詳しい情報はFASTウェブサイトまで。

 

 

メイドさんとの暮らし〈ある日本人家庭で働くメイドの日常〉
共働き夫婦と子供(13歳)の3人、犬1匹の場合

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メイドを雇用するには

全体からは少数派ではあるものの、住み込みメイドを雇用する日本人家族も増えているという。
家事や育児を支える上では強い味方となってくれる存在だが、実際に雇うには主に以下のような手順が必要になる。

※シンガポール、送り出し国の方針・変更が頻繁に行われるため、注意が必要。

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パートタイムメイド

住み込みの外国人だけではなく、パートタイムメイドという選択肢もある。プライバシーを守り、柔軟なサービスを手軽に受けたいと考えるシンガポール人たちがパートタイムメイドを選択する機会も増えていることが報じられている。例えばA-team Amahs & Cleanersでは、ビザの手配などが不要なシンガポール人とPRの女性による育児や家事のサービスを運営している。毎週3時間以上の利用が必要で、毎週同じ曜日同じ時間の利用が基本だが、同社では相談に応じるとしている。価格は同社の場合、最初に支払うエージェント手数料が338Sドルから、メイドへ直接支払う額は1時間当たり15Sドルから(週4時間以上の場合)

 

トラブルを防ぐために

メイド雇用にまつわるトラブルも多く聞かれる。典型的なトラブルと、未然に防ぐ方法について、FASTのウィリアム・チュー氏にアドバイスをもらった。

 

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メイドさんに聞きました「あなたの夢は?」

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.258(2014年06月02日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真 : 石澤 由梨子

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