2025年6月13日
シンガポール企業、地政学的リスクにも自信 半数が「高い備え」示す
シンガポールの経営者は、世界の中でも地政学的緊張やAI技術の進展、サイバーセキュリティなどの課題に対して最も高い備えを示していることが、Kroll社による最新のビジネス・センチメント調査で明らかとなった。
報告書によれば、シンガポールの経営層の48%が「非常に備えている」と回答し、アジア太平洋地域全体の34%、世界全体の38%を上回る結果となった。調査は今年2月に実施され、米国、英国、香港など20超の市場から1,200人のC-suite経営者が回答した。
ただし、調査は米国が4月に一部経済圏に対して「解放記念日関税」を発表する以前に行われたものであり、その後の地政学的リスクへの認識は変化している可能性がある。シンガポールは米国に対して約36億Sドルの貿易赤字を抱えており、10%の関税対象とされたことは予想外であったとKrollの地政学アドバイザー、タッカー氏は述べている。
また、シンガポールの経営者のうち地政学的緊張を重大な懸念と捉える割合は22%にとどまり、グローバル平均の33%、アジア太平洋の28%よりも低かった。これは過剰な楽観視の可能性があると同氏は指摘している。
INSEADのプーシャン・ダット教授は、関税政策の不確実性が世界経済に混乱をもたらしており、「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも途中で引っ込める)」的な行動がかえって不透明性を増していると警鐘を鳴らす。リスクと不確実性の違いを認識し、現実を直視すべきだと述べた。
関税の予測が困難な状況では、企業は中長期的な戦略立案が難しくなり、投資やM&A、新市場開拓に慎重になる可能性があると指摘された。
とはいえ、シンガポール企業は財務健全性においても良好なスコアを示しており、20%の経営者が自社の財務状態に「完全な自信がある」と回答した。これは世界およびアジア太平洋平均の9%を大きく上回る。
クローズの再建部門マネージングディレクター、アナベル・カイ氏は、2025年予算で発表された法人税の50%還付、低所得労働者への賃金支援、AI投資への助成などが、企業のコスト増対応や持続可能な成長に寄与すると評価した。
全体として、SMUのフイン・バオ・タン講師は、「関税の影響は限定的であり、企業の競争力には大きな変化はないだろう」と述べている。市場では引き続き、米中やEUとの貿易交渉の好転に対する期待が根強い。