2024年12月17日
シンガポールのオンライン苦情文化とその背景
シンガポールでの国民的な「趣味」といえば、美味しい料理を求めて列に並ぶことや、お得な買い物をすることが挙げられる。しかし、もう一つの特徴的な行動として挙がるのが「苦情」である。
その象徴ともいえるのが、Facebookグループ「COMPLAINT Singapore」である。2017年に設立されたこのグループは、現在23万人以上のメンバーを擁している。投稿内容は多岐にわたり、「人生で最悪のキャロットケーキ」といった些細な不満から、保険会社とのトラブルまで幅広い。
このグループの活動は単なる不満の共有に留まらない。企業が苦情に直接対応する場にもなっており、2022年と2023年にはシンガポール警察と協力して詐欺防止キャンペーンも展開した。
一方で、こうした苦情文化は賛否両論を呼んでいる。シンガポール国立大学のジョナサン・シム講師によれば、不満の表明は問題解決の契機となり得るが、些細な不満が無秩序に広がることで問題の本質が見えにくくなる場合もあるという。
また、シンガポール経営大学のジョージ・ウォン講師は、オンライン苦情文化は関係者と公共が適切に活用すれば、前向きな変化をもたらす可能性があると指摘する。実際、苦情がオンラインで拡散し、返金や謝罪を引き出した事例もある。
ただし、苦情が誤解や誤った情報に基づく場合、深刻な社会的影響を引き起こすこともある。例えば、2018年に起きたガソリンスタンドでの誤解が拡散し、関係者が嫌がらせを受ける事態となった。
「COMPLAINT Singapore」ではこうした問題を防ぐため、証拠の提出を義務付けるなどのルールを設けている。それでも、トリビアルな不満が多く寄せられる現状は、グループの運営者を悩ませている。
それでも、不満を口にする人々には共通点がある。それは「問題を放置せず、関心を持つ姿勢」だとシム講師は語る。苦情がシンガポール社会で果たす役割は、単なる「文句」以上のものと言えるだろう。