2014年4月21日
住宅賃貸:「会社」契約の節税メリットが無くなります
1.税法改正で、負担税額は「会社」契約・「個人」契約、いずれもほぼ同じに
今年(2014暦年=2015課税年度)の家賃分から、駐在員用の借上げ社宅家賃についての個人所得税の優遇措置がなくなります。昨年までの家賃は、「会社」契約の場合、「家賃総額」または「年間総所得の10%」のいずれか低い方で課税されており、「個人」契約で実額を家賃補助する場合、つまり家賃全額が個人所得に算入される場合と比べ、圧倒的に有利でした。
・従来の「個人」契約
年間総所得12万Sドル+ 7万2,000ドル(家賃)=19万2,000Sドル
税額【2万2,195Sドル】*
・従来の「会社」契約
年間総所得12万Sドル(国内給与・賞与含む)×1.1 = 13万2,000Sドル
税額【1万610Sドル】*
差額=節税額【1万1,585Sドル】*
であったものが、今年(2014暦年=2015課税年度)の所得分から、実質家賃全額課税に変更となります。
*個人所得税全額会社負担(いわゆるTax on Tax)を前提とする
2.「個人」契約の利点
住宅契約を「個人」契約とし、かつ、家賃を定額の手当に変更した場合、
・家賃節約分、超過分を個人勘定とした場合、概して家賃節減につながりうる。
・住宅に関わる「会社」に対する家主からの訴訟リスクがなくなる。
・「会社」契約の場合に必要であった手間(=人事・総務関係の労務費)が減らせる。
・個人の月額給与が増えるので、Employment Pass申請時に有利。
3.「個人」契約の問題点
・駐在員個人が、言語・文化・商習慣の異なる当地で、住宅の契約を個人責任で対応できるのか?不当契約を押し付けられたり、本人のストレス増加に繋がりうる。
・駐在員個人が契約リスク=訴訟リスクを管理・負担可能か?家主からのクレームを全額駐在員個人負担として、良いのか?当地の場合、大半の家主は個人所有者で理不尽な家主による不当クレームも非常に多い。
・敷金の資金負担:融資制度が無いと、個人の負担が過大に=引越貧乏の加速
4.いずれにしても、駐在員維持コストはますます増大
1.の試算では、駐在員の年間総所得を12万Sドル(国内給与、賞与等を含む)としましたが、これより多い場合は、実効税率の上昇分も含め、失われる節税額も、より大きくなります。
当地政府の意向としては、
・賃料負担を実質重くし、賃料上昇に歯止めを掛け、不動産価値=価格上昇にもブレーキを掛けたい
・コストの一層高くなる外国人駐在員を減らし、シンガポール人従業員に置き換えて欲しい。あるいは、業務のより一層の合理化=生産性向上を図ってもらいたい……ということではないでしょうか?
5.筆者の個人的意見
駐在員個人で、住宅契約も自己管理できるような企業では、「個人」契約、「住宅手当渡し切り」も一つの選択肢ですが、海外経験が乏しい駐在員を多く抱える企業では、現実的ではなさそうです。結果的に駐在員のストレスを高め、生産性が低下する場合もありえます。各企業様の経営方針・人事政策・人材状況等に照らし、良案を策定されては如何かと思います。
文=木村登志郎(パシフィック不動産株式会社CEO)
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.255(2014年04月21日発行)」に掲載されたものです。