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紀伊国屋「おすすめの1冊」

2005年8月8日

『スペアーズ』マイケル・マーシャル・スミス

photo-20予備知識もなく、スカーレット・ヨハンソンが出演しているだけで、映画「The Island」を観た。まだ観ていない人の為に詳しく内容を語れないが、観ている最中に奇妙な既視感をおぼえ、気になって仕方がなかった。その日、寝る前にようやくその訳を思い出した。90年代後半、SFをよく読んでいた頃に出会った作品とプロットが非常によく似ていたのだ。それが、本書「スペアーズ」だった。自堕落な生活を送る元警部補のジャック・ランドールが働く「農場」では、あるものを飼っていた。「もの」と言っても思考能力も感情もある人間だが、正しく人間と定義できるのかどうかはわからない。彼らがクローン人間だからだ。クローン人間が飼われている理由は、彼らのオリジナルが病気や事故などで体組織の移植が必要になったときに備える為。手足を切り取られ、皮膚を剥がれ、内臓を取られながら暗いトンネルの中で放置されている彼らはスペアと呼ばれ、ヒトではなくモノとして扱われていた。本書はこんな感じで始まる。実際には、コストを考えると採算が合わないように思うし、クローン羊のドリーのような問題もある。だが、クローン技術が発達すると、こういう商売が闇で行われるようになるかもしれないと、当時は恐怖を感じた。現在では、ES細胞の研究が進んで、こんなSFなど笑い話になりそうなのが救いだ。

 

ソニーマガジンズ

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.056(2005年08月08日発行)」に掲載されたものです。
文=茂見

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