2006年7月17日
『日曜日たち』吉田修一
日曜日って何だか寂しい。
「サザエさん症候群」という言葉がある。毎週日曜の夕方に放映されるテレビアニメ「サザエさん」を見て、日曜日(休日)が終わるのを実感して憂鬱になり、心理的に不安になることらしい。そこまで繊細ではない私も日曜の夕方には何とも言えない寂寥感や焦燥感を覚えたりする。
本書は、そんな日曜日に起こった、東京で暮らす若者たちの出来事5篇を収録した短編集。
無職の男が日曜日ごとに部屋を訪れていた恋人を思い出す「日曜日のエレベーター」、互いに拭い去れない喪失感を抱える父と息子が心を通わせる「日曜日の新郎たち」など、派手なイベントとは無縁な話ばかりだ。
5篇とも都会での生活に疲れた主人公たちの気だるさが漂っており、それに日曜日の雰囲気がマッチしているからだろうか、全体を通して寂しさを感じてしまう。しかしそれがまた心地良い。
なお、それぞれの主人公に訳ありそうな幼い兄弟に出会った過去を与えることによって、唯一の共通点としているのが特徴。人によってはそれが全編通して読み終わった後に隠し味として効いてくるかも。私としては蛇足な印象を持ったが。
ともかく興味を持たれた方には日曜の午後に読むことをオススメしたい。
講談社文庫
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.078(2006年07月17日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール本店 古矢