2006年9月18日
『印度放浪』藤原新也
「歩むごとに、ぼく自身と、ぼく自身の習って来た世界の虚偽が見えた。しかし、ぼくは他の良いものも見た。巨大なガジュマルの樹に巣食う数々の生活を見た。その背後に湧き上がる巨大な雨雲を見た。人間どもに挑みかかる烈しい象を見た。象を征服した気高い少年を見た。象と少年を包み込む高い森を見た。世界は、良かった…」
若き日の藤原新也が、14年間ヨーロッパ・アジアを放浪し、そしてその末に、心の本当に底から出さずにいられなかったのではないかと思う言葉、「世界は、良かった」読んだ瞬間にその言葉の重さを感じずにはいられなかった。
「世界は、良かった」などという言葉はなかなか言えるものじゃない。
本作品は藤原新也の処女作であり、そして最高傑作なのではないかと思う。藤原新也のみずみずしい感性と、それを見事なまでにうたいあげる素晴らしい言葉の数々、そして印度の見えない“何か”が見えてきそうな写真の数々。
1ページ、1ページ読み進める毎に、その世界に引き込まれずにはいられない。
朝日新聞社
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.082(2006年09月18日発行)」に掲載されたものです。
文=リャンコート店 里見