2006年10月2日
『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美
ニシノユキヒコが嫌いだ。
読んで真っ先にそう思った。
本書は10代から死後までニシノユキヒコの恋の遍歴を、その時々の交際相手であった女性の視点で語る10編の連作短編集。とにかく全編通して主人公のモテっぷり、ソツの無さ、煮え切らない態度が、本当に苛立たしい。
モテない男の僻みと言われればそれまでだが、はっきり言ってコイツ本当に駄目な男だ。ふたまた、不倫、監禁まがいとなんでもあれなのに、見た目スマート。LEONのチョイロクどころではない本当にロクデナシ、それがニシノユキヒコ。
彼がそういう人間になってしまった理由らしきものも語られているのだが、やはり許せん。
それなのに読後一番印象に残るのは、ニシノユキヒコのダメっぷりより女性の怖さ。
言葉のやり取りや抱かれている裏で交際相手達が持つ醒めた反応は、自分が男性だからか、得体の知れないものを感じる。嬉しそうに話していながら、「この人を愛していない」と思うのってあんまり。
逆に女性は彼の恋愛相手達に共感してしまうんだろう、きっと。げに難しきは男女の機微ということか。
そのためか、あんなに嫌っていたニシノユキヒコに対して、何か同情というか共感を感じてきてしまう今日この頃だ。
新潮文庫
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.083(2006年10月02日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール本店 古矢