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2006年10月16日

『ジョナサンと宇宙クジラ』ロバート F.ヤング

photo-1ロバート・F・ヤングという作家がいる。

元々邦訳された作品が少ないのに、そのほとんどは絶版。恐らく本書『ジョナサンと宇宙クジラ』は現在日本で購入できる唯一のヤング作品だ。本書からしてしばらく出版社で在庫僅少だったのが、ようやく新装され再び刊行されるという状況。

そんなマイナーな彼の書く作品はSFと言うには少し恥ずかしい話が多い。この作家の作品を一言で安易に表現するなら「ロマンティック」。ロマンティックとSFという言葉は相いれない相容れない気もするかもしれないが、敢えてそんなカテゴリーにくくりたくなる。

宇宙を漂うクジラとの交流を描く表題作、アンドロイドの教師を購入してしまった男を描いた『9月は30日あった』、瞬間移動を行う犬と売れない芸人との興行を描いた『リトルドッグゴーン』と、どれも人と人(もしくは人以外の何か)とのふれあいや、思いやりや愛情に目を向けた作品ばかりだ。

通常、ニューマニズムとか愛といったテーマを扱うと大仰な作品になりがちだが、この作家の作品についてはキッパリ言って読んで号泣はしないだろう。強い感動の無い代わりに読むとちょっと良い気持ちになれる。そう電車でお年寄りに席を譲ったとか、転んで泣いている子どもを起こしてあげいてお礼を言われた時のような、くすぐったいような恥ずかしいような、小さな、本当に小さな良い気持ち。そういうささやかな良い気持ちを味わいたい人には読んで欲しい一冊。

 

早川文庫

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.084(2006年10月16日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール本店 古矢

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